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気が付いたら窓の向こうの慎を見詰めながら、夢中で窓を開けていた。黙って飛び込んできた慎が俺をきつく抱き締める。
夢なのかもしれないと思うほど、その後の行為は激し過ぎて、俺は何度も啜り泣きの声を上げた。
気が遠くなるほど続いた熱さの中、俺はいつの間にか眠りに落ちて行き、目が覚めた時は部屋にもう明るい日が差していた。
すっかり覚めた頭で自分を見る。身体中粘つくようで気持ちが悪かった。シーツを見た途端、顔を顰めた俺は、首を振って起き上がるとベッドからシーツを引き剥がした。
(こんなのお袋に見せられない。)
慎は夜中に窓から出て行ったんだな…。
俺が無我夢中だったのに比べて、慎は冷静だったってことだ。
何がどうだったか、夕べのことは何も思い出せない。自分の切れ切れの声と、慎の身体の重さだけが記憶の中に残ってる。
そこまで我を忘れていた俺を見て、慎はどう思ったんだろう?あいつはまだ高校生だ。俺が好きだなんて、簡単に言ってくれちゃったけど、そんなのただの気の迷いだったのかもしれない。
丸めたシーツを抱えたまま俯いていると、玄関のドアが叩かれる音がした。
(慎?)
「あら、お早う!え?あら、まだ寝てるのよ。いくら日曜日でも、ほんとにしょうがないったら…。は?あ、ええ、慎一君なら構わないと思うけど…」
聞こえてくるのは、お袋のでかい声だけだったけど、それから慎の「おじゃまします。」っていう声がしたと思ったら、階段を上がってくる足音がした。
それで自分が裸でいることにハッと気がついた。
パジャマがどこにあるか分からなくて、シーツを抱えたまま、俺は咄嗟に部屋のドアを押さえた。
「一哉さん?」
「入るな。」
「一哉さん…」
「帰れ。会いたくない。」
一瞬、息を呑むような間の後で、慎が静かに言った。
「部屋に入れて、一哉さん。おばさんが変な顔して見てるよ。」
裸のまま慎に会いたくなくて、でも慎を追い返せばお袋が変に思うのも分かっていた。
仕方なく俺は息を吸い込むと、また小さく溜息を吐いてから、シーツで身体を庇うようにしながら部屋のドアを開けた。
黙って部屋に入ってきた慎は、シーツを抱えたまま慎と目を合わせようとしない俺を見ると、ドアの傍で立ち止まった。
そうやって突っ立ったままの慎の方をチラッと見ると、慎が拳を握り締めるのが見えた。
「ごめん、一哉さん。俺、あんな風にするつもりじゃなかったのに…」
辛そうな声に俺が顔を上げると、慎の方が目を逸らした。
「一哉さんに、うんと優しくしてあげたくて、ずっとそう思ってたのに…嫌だったんだね、ごめん。俺、全然余裕なくて、自分が何したか良く覚えてなくて…。一哉さんを酷い目に逢わせたんなら、ほんとごめんなさい。」
慎の唇が少し震えているのを見て、俺の心臓がドキッと跳ねた。
「同じだよ…俺も。」
悲しそうな目で慎が俺を見詰めた。
「よく覚えてないんだ、夕べのこと。俺…俺の方がずっと年上なのに、すごくみっともないとこ見せたんじゃないかと思って…お前に呆れられたんじゃないかと思って、すっげえ落ち込んでた。」
「一哉さん…」
俺がまた俯いてしまうと、シーツを抱えて胸の前でしっかり組んだ俺の手に、慎がそっと手を伸ばした。
「一哉さんに触ってもいい?」
そんな風に聞かれても返事の仕様がなくて、俺は黙ったまま微かに頷いた。
その途端、慎にギュッと抱き締められる。
「会いたくないなんて言うから、心臓止まるかと思った。あんな風に脅かすの無しだよ、一哉さん…。」
耳元で、ハアッって大きな溜息が聞こえると、背中に回された慎の腕にますます力が篭められた。
「ご、ごめん…。俺、慎の顔見るの恥ずかしくて、それでつい…」
慎が背中に回した腕を離すと、今度は両手を俺の肩に置いて、ジッと俺の顔を見詰めた。
「それって、一哉さんも良かったってことなの?」
「なっ!なに言って…」
焦って目を逸らしたけど、慎は首を傾けてしつこく俺の顔を見た。
「それとも俺、下手糞だった?」
「ば、馬鹿…」
俺がギュッと口を閉じて横を向いてしまうと、慎が俺の肩に置いた手をだらりと落とした。
「そんなに俺、下手だったんだ。」
「そ、そんなわけないだろ!俺、さっきも言ったじゃんか、みっともないくらい夢中になってたって…」
思わずそう言ってしまってから慌てて口を閉じたけど、慎はもう嬉しそうに笑っていた。
「引っ掛けたな…」
「ああ…一哉さん、可愛いっ!」
「離せ!離せったら!」
しばらく無言のまま二人で揉み合ってたけど、結局、俺は慎と抱き合ってキスを始めた。
「んっ…」
ぐったり俺の身体から力が抜け出した頃、お袋が下から大きな声で呼びかけた。
「慎一君、そろそろお昼ご飯なんだけど、どうする?うちで一緒に食べてく?」
名残惜しそうにチュッと俺の唇を吸ってから、慎が俺を離した。
「いえ、もう帰ります。ご飯時にお邪魔してすみませんでした。」
「あら、そんなこと良いのよ。」とか何とかお袋の声がするのに、慎が軽く溜息を付いた。そのまま、俺を見てゴクッと息を呑む。
(あ…)
抱えていたシーツはとっくに床に落ちてしまっていたから、俺は素っ裸のまま慎の前に立っていた。
いまさら女じゃあるまいし、前を隠すのも余計に恥ずかしくて、でもそのままだと、身体中を撫で回すような慎の視線に反応してしまいそうだった。
「帰らなきゃ…」
俺の身体のあらぬところを見詰めたまま、慎がやっとそう呟いた。
「このままここにいると、一哉さんを襲っちゃいそう…」
「じゃあ後で来る?」
俺が思わずそう聞くと、慎が「え?」って言うみたいに顔を上げた。
「今夜も…来る?」
「来て欲しい。」とは流石に言えなくて、それでもそう聞いた途端、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。
「酷いな、一哉さん…。そんな顔されたら俺の自制心、吹っ飛びそう…」
「じゃあ…」
「来てくれるんだ。」って言いかけた俺を遮って、慎が首を横に振った。
「なんで?」
ちょっと情けない声が出てしまったのが悔しくて、俺は慎を軽く睨んだ。
「またそんな顔する…」
そう言うと慎が溜息を吐いた。
「明日は仕事でしょ、一哉さん。今日だってこんな時間まで寝てたんだし…無理だよ、今夜もなんて。」
「仕事…」
慎の方がやっぱり余裕があって、俺よりずっとしっかりしてる。明日からまた仕事だなんてこと、ちっとも頭になかった俺は、慎にそう言われて頷いた。
「そっか…そうだよな。」
途端に冷静になった俺を見て、慎ががっくり肩を落とした。
「そう簡単に納得されるのも、それはそれで複雑って言うか…」
首を振りながら俯くと、慎が左手で自分の首筋を撫でた。その様子が子供っぽくて、ちょっと前まで子供っぽい面影と重なる。それで急に大胆になった俺は、慎の顔を覗き込んだ。
「なら今夜でもいいよ。」
首に手を当てたまま、慎が赤くなった。そしてまたゴクッて喉を鳴らすと、掠れた声で答える。
「土曜日…」
「え?」
「また土曜日に来る。」
「土曜日まで…」
そんなに待てないって言うのも恥ずかしくて、俺はそのまま目を伏せた。
「平日は一哉さん、無理っぽいし。俺、ここに来ちゃったら、自分を途中で抑える自信ないって言うか…。」
顔を上げた俺は、慎の困り果てた様子に思わず吹き出した。
「こーこーせー!」
そう言って笑うと、慎も照れ臭そうに笑った。
「お袋が煩いから、今日はもう帰れ。」
「う、うん。」
だけど、帰ろうとする慎の腕を捕まえて、俺は後ろから抱きついた。
「キスしてから行け。」
振り向いた慎が俺の唇に優しく触れると、頭を抱えて撫でた。
「大好き、一哉さん。」
そのまま慎は帰って行き、お袋に「日曜だからって、いつまで寝てる気?」って文句を言われながら、俺はノロノロ服を着た。そして新聞を開いたままの親父と、「サッサと食べてくれないと、片付かなくて困るのよ。」って文句を言うお袋と一緒に遅い昼飯を食べた。
一週間がそんなに長かったのは初めてだった。毎日、偶然にか故意にか、俺と慎は必ず一度は顔を会わせた。慎がうちに来ることもあれば、俺の帰宅時間に慎が門の前で立ってることもあった。
そして一言、二言、他愛ない言葉を交わすと、慎がちょっと眩しそうに俺を見る。
一週間、そんな慎を思い出して、俺は自分で自分を慰めた。毎日、毎日やるなんて、それこそ高校生に戻ったみたいに。
そうしてると、今にも窓から慎が顔を出しそうで、興奮した俺はいつもアッと言う間に達してしまった。
土曜日が来る頃には、もう理性は吹っ飛ぶ寸前で、窓から慎を迎え入れると、俺はまた夢中になって慎を抱き締めた。後はまた記憶が切れ切れになる。
次の日には、必ず慎が俺の様子を見にやって来た。そして、
「顔見ただけで帰るの辛いけど、それでも会いに来ずにいられない。」
って言って照れたように笑う。
そのまま3ヶ月ほどが過ぎて、時々、仕事をしながらでも、何かの拍子にフト慎の顔や声を思い出すようになった。
(すごい重症かも…)
そんな時に、ふっくらと丸い頬の子供の顔が目に浮かぶことがある。その途端、俺の心臓がドキドキ痛んだ。
慎は夜中にこっそり窓から入って来る。
俺達の関係はそんな関係。コソコソこんなことを続けていても、この先は? うちの親だって、慎の両親だって、俺達のことを知ったら…
そこまで考えて、俺は慌てて頭を振った。
絶対にバレたりしない、慎が大学に行ってしまうまで、それまでの間だけだ。いつか必ず俺の方から諦めるから、それまでの間だけはこのまま…。
でも、そうやってこっそり部屋で会う回数が増えるほど、会えない時間が辛くなった。
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