共犯者

ライン ドット

「心配しないで、誰にも言ってませんよ。」

 

多分真っ青になってたと思う。机に手を突っぱって震えてる俺に坂本がからかうように声を掛けた。

 

「ただし、俺にも分け前を下さいね。」

 

俺はゆっくり首を振った。

 

「金は全部課長と高田機材の社長が山分けしてる。俺には何の見返りも無いんだ。」

「知ってますよ。安西さんは学生時代から入居してるアパートで、給料に見合った生活をしてますよね。その点、課長は最近ゴルフの会員権だとか買ってる。」

 

ぽかんとした顔で振り向いた俺に坂本が続けた。

 

「この手の詐欺は誰が利益を得てるか割と分かり易いんですよ。課長は安西さんに全部押し付けて逃げる気かもしれませんけど、そう思ってるのは本人だけで、調べられれば誰がやらせてたことか直ぐに分かりますからね。」

 

坂本が手を伸ばすと指で俺の頬を軽く撫でた。

 

「だからもうあいつらの思い通りにならなくてもいいですよ。金だって貰っとけばいい。俺が一緒にやれば桁違いの金をごまかせるようになるし、あなたの課長だって文句は無いでしょう。」

「お前、一体幾らごまかす気だ。」

「ああ、そういう話は課長も入れてまた後で...。それより先に俺の分け前を下さい。俺にも課長にしたことして下さいよ、安西さん。」

 

(何だ、こいつもそうなのか。)

 

相手が欲しがってるものが分かれば却って安心した。外見だけなら脂ぎった課長や高田機材の社長よりは、坂本の方が全然ましだ。

 

「いいよ。俺の部屋に来る?」

 

なぜか坂本ががっかりしたような顔をした。

 

「随分あっさり言うんですね。」

「何だよ。嫌なのか?」

「いや、オフィスで嫌がる安西さんを無理矢理に、っていう状況を想像してたもので。」

「は?その方がいいんなら俺はどっちでもいいぜ。せいぜい抵抗してみせてやる。」

「いえ、折角ご招待頂いたんです。お部屋にお邪魔しますよ。」

 

(おかしなことになったな。)

 

自分の部屋に戻ってシャワーを浴びながら、俺は自嘲気味に笑った。坂本はよく見れば、汚らしい課長達に触られてげんなりしてた俺の方から誘いたい位、俺の好みだった。せいぜい楽しんでやればいい。

 

シャワーを浴びて居間と寝室兼用の部屋に戻ると、部屋の隅のベットに腹ばいになっていた坂本が顔を上げて、わざとらしく目を見張った。

 

「裸なんて大胆ですね。」

 

俺は坂本を押しのけてベットに転がると奴の上着の襟を掴んだ。

 

「どうせやるんだろ。お前もさっさと脱げ。」

「らしくないですよ...

「?」

「そういう言い方、安西さんらしくない。」

 

憐れむような口調と顔つきにむっとした。

 

「うるせえ、お前に俺の何が分かるってんだよ。」

「課長に脅されてたのは安西さんの恋人のためなんでしょ?どうして別れちゃったんです?まだ好きなんですよね、その人のこと?」

「お前…どこまで俺のこと調べた?」

「安西さんのことは前から気になってたんで、課長とのことを目撃した後色々と調べてみたんです。どう考えてもあの課長と安西さんじゃ釣り合わないし…」

 

そう言い掛けた坂本の肩を掴んでベットに押し付けた。

 

「省吾のことは放っとけ。あいつに何か言ったりしたり、少しでもおかしなことしてみろ、殺してやる。本気だ。」

 

俺の脅しに動じる風もなく坂本が俺の目を見てのんびり言った。

 

「ほら、やっぱり好きなんだ。」

「だったら何だ!お前に関係ない。」

「分かんないなあ。好きな相手とは別れて、好きでもない俺と寝ようなんて。安西さんマゾですか?」

「もういい、やる気がないなら帰れ!」

 

怒鳴っても相変わらず坂本の薄笑いは消えなかった。

 

「帰りません。安西さんにその気がなくても、俺の方は安西さんが好きですから。」

 

こういう状況でそういう台詞をシャーシャーと口にする神経に呆気にとられた。それなのにそれだけのことで少しだけ罪悪感が薄らぐ。例え嘘でも。

 

「俺のことどう思ってくれても構いませんけど、少しは俺に欲情してくれてません?」

「ああしてる。」

 

顔も身体も好みなのは事実だから俺はあっさり答えてやった。また坂本が複雑な顔をした。どうも俺が嫌がってる方がやりがいがあるらしい。だけど俺はマゾじゃない。

 

「そうあっさり言われると調子狂っちゃいますね。」

「なら止めれば。」

「そうはいきませんよ。安西さんがその気なのに。」

「ややこしい奴だな。やるならさっさとやろうぜ。」

「見かけによらずムードの無い人ですね。」

「悪かったな。あの課長に突っ込まれてヒイヒイ鳴くような男だからな、俺は。」

 

そう言って笑ったつもりだったのに顔が泣き笑いになったのが自分でも分かって、俺は俯くと片手で口元を覆った。嫌なことを思い出して悪寒に身体が震える。坂本が口元を覆った俺の手を握るとそっと外した。そのまま俺にキスをする。

 

無理やり犯られるかと思ったのに、坂本は俺に優しかった。久しぶりに抱きしめられて途中から泣きじゃくる俺に、何度もキスを繰り返しては甘い言葉を囁く。「好き」だと。いつの間にか俺は他のことは何もかも忘れて奴の愛撫に夢中になった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

見た目よりずっとしたたかな男らしい坂本は、それから課長と高田機材の社長に話をつけたらしい。奴らは俺に手を出すのを止めた。坂本の指示通り、課長が予算の段階から帳簿をごまかし始め、ちょっと調べただけじゃ分かりにくいシステムが出来あがった。

 

愛なんかじゃもちろん有り得ない変てこな関係で、俺と坂本は続いている。適当なタイミングで俺が好きだって言う坂本は、後ろめたい罪悪感で繋がってる俺達の関係を適度に生暖かいものに変える。

 

もう省吾の顔が遠くなって、思い出すのもまれになっていた。

 

そしてあいつの言うとおり、俺にも金が入るようになった。やっぱりあいつに言われたとおり、入ってきた金は全て家族や親戚の名前で株、金塊、海外の不動産に至るまでありとあらゆるものに投資してる。

 

こういう関係がいつまでも続いて永久に捕まらないなんてこと有り得やしない。それでも俺は、生半可な恋人との絆よりよっぽど強いあいつとの関係に溺れていた。

 

落ちる時は一緒だって分かってる、俺の共犯者が傍に居る。

 

もう離れられない。 

ライン ドット

後書き

うーん、エロの無い話になってしまいました。けど、自分としては好きな話です。受けキャラがこういうタイプ好きかも。やっぱリーマンですよね。本当は高校生とか若い子より年齢高めの方が好きなんです。

 

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