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さっき一人でテーブルに座って少し度胸がついたらしい。友達と別れて歩き出した智也君に俺はワザとぶつかった。
「エクスキューズ・ミイ」
「いいえ、こちらこそ。」
俺の日本語を聞いて、智也君の大きな目がびっくりしたみたいに開かれた。やっぱり俺は日本人には見えないらしい。
「済みません、こちらの方かと思って。」
「構いませんよ。こういう顔ですから。」
そう言って俺が微笑むと智也君の顔が引き攣った。自分では優しい笑顔を浮かべたつもりだけど、強面だからどうやら凄んでいるようにしか見えないらしい。怖がられれば逃げられるから、俺は猫撫で声で続けた。
「さっきブラック・ジャックのテーブルで一緒でしたよね?」
「ああ…はい。」
「あんまり慣れてないみたいでしたけど、ひょっとして初めてでした?」
「はい、そうなんです。あっという間に負けちゃって…」
ちょっと唇を噛んで悔しそうな顔になる智也君に、俺はなるべくさり気なく、ゲームに勝つためのコツを知ってるって話した。徐々に智也君の顔に憧れと尊敬の色が浮かぶのが見えた。こうなると魚が引っかかってきたも同然。
横に立って見るのは禁止されてるから、何回か智也君の隣で一緒にプレーした。ディーラーに分からないように、決めておいた合図の通り、降りるべきかどうか智也君の足を蹴って教える。智也君もカードの数と色を、頭に手を当てたり、テーブルを指で叩いたりして俺に教えた。
二人で組んでるのが目立たないように、俺はワザと少し負けて、智也君には勝たせてあげた。彼がさっき負けた100ドルを取り返した所で、俺達はテーブルを離れた。そのままバーに誘うと智也君は素直について来た。
「ああ楽しかった!こんなの初めてです。ギャンブルに夢中になる気持ち、すっごく分かるなあ。」
頬が上気して目がキラキラしてる。甘いカクテルを一気に飲み干すと、智也君がハアって大きく息を吐いた。
「諭さんのおかげです。僕、奢りますからドンドン飲んで下さいね。」
俺は苦笑しつつ礼を言った。ご機嫌の智也君を酔い潰すのは簡単で、カクテルを2、3杯飲むと智也君がカウンターに頭をくっつけて倒れこんだ。
奢って貰うどころか、俺がそのお高いカクテル代を払う羽目になったけど、ぐったりした無防備な智也君の身体が、その代わりに好きにして下さいっていうみたいに俺に凭れかかってきた。
もちろん「好きにして」なんて言われたわけじゃない。俺の部屋に連れ込んで、半分意識のない智也君を裸にして好き勝手したのは俺が悪い。途中で痛みに酔いが冷めた智也君が泣き喚いたけど俺は無視した。
彼が悪いわけじゃない。
ただ順当にまっとうに、迷いもなく、道を踏み外すこともない、そんな風に生きてる奴らが嫌いだった。俺に出会わなければ、こういう顔で泣くこともなかった。心底怖い思いをすることも。
この先どんなにきちんとした人生を送ろうと、身体と心に刻まれた俺の印を彼が忘れることはない。会うべきでない相手と出会ってしまったことを後悔とともに思い出す。
次の日の朝、無言で震えている智也をホテルまで送り届けた。
こういう生き方は止めるべきだと思う。不法滞在ってわけじゃない、正業に就こうと思えば出来る。結婚して子供を作って、そういう生き方もあるはずなのに…。
親父も半端な人間だったから?お袋に男がいたから?散々人に裏切られてきたから?
言い訳はいつでも身についた怠惰に摩り替わる。俺は口の中で呟いた。
「さようなら、智也。俺を思い出す時は、俺をぶっ殺すとこでも想像してくれ。」
きっと俺はいつか、そうやってこの街の片隅で人生を終えるんだろうから。
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後書き
書きやすい話を書こうと思ったのに、後半無理矢理になって書けなくなってしまいました。エロは好きですが痛い話苦手で肝心の所(?)を思い切り端折ってしまいました。ごめんなさい。次の短編は一応エロいです。