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日本でもアメリカに来てからも、色んな街を流れ歩いたけど、俺にはここが一番性に合っている。最近は大型のディズニーランドみたいになっちまったけど、それでも充分に如何わしい街だ。ありとあらゆることが全て賭けの対象になる。そんなラスベガスの街で俺はもう何年も暮らしている。
190cm近い長身と、無駄に彫りの深い顔に濃い眉のお蔭で、俺が日本人、いや東洋人だなんて思う奴は誰もいない。その日も俺は日銭を稼ぐべく、大型カジノのブラック・ジャックのテーブルにさり気なく腰掛けた。
俺はカジノからは蛇蝎の如く嫌われる存在だ。ギャングが去って、今やベガスのカジノの殆どは大手のホテル・チェーンが出資者だ。そういうカジノだから、まさか見つかったからって殺されるってこともないだろうけど、俺はなるべく目立たないように小さく儲けることにしてる。欲を出すと碌なことがない。
何の取り柄もない俺のたった一つの特技がカードをカウント出来ることだ。レインマンじゃあるまいし、何組かのデッキを全て覚えておくことは不可能だけど、慣れてくればかなりの確立でディーラーの手元を読むことができるようになる。ただこれは人間が相手の場合だけで、近頃のカジノみたいに機械を導入されると俺もお手上げだ。
そういうカジノが増える度に、いい加減こういう生き方は止めた方が良いって首を絞められてるような気にはなるものの、俺はなかなか身についた自堕落な生き方を変えることが出来ないでいた。
根っから賭け事が好きなせいもある。日本を出て来る羽目になったのも元々はそのせいだ。親を泣かせ、恋人を泣かせ、借金に追い駆けられてここまで逃げて来た。そしてとっくに滞在期限が切れた俺は、この街で賭けに勝ったお蔭でアメリカの永住権を手に入れた。
酔った勢いで俺と賭けをした女は、染めたブロンドと整形したでっかいおっぱいのショー・ガールで、俺達はお互いに自分の身体を賭けてダイスを転がした。俺が負けたら一晩中あそこを舐めまくってやる。俺が勝ったらドライブ・スルーで即結婚式を挙げる。
結婚生活はあっという間に破綻したけど、女が約束を守って書類上は結婚生活を続けてくれたお蔭で、俺はここで生きる法律上の権利を手に入れた。気のいい女だし、最近はちょっと金持ちの愛人も出来たから、彼女の気が向くと時々俺は呼び出される。恩返しだと思ってそういう時は思い切って御奉仕してやってるが、その後無性に口直しがしたくなる。
さっきから俺はブラック・ジャックのテーブルの端に座ってる、可愛らしい日本人の男の子から目が離せなかった。
男が特に好きってわけじゃない。寧ろ女の方が好みだ。けど、こういう雰囲気の子を見るとムラムラするのは昔からだ。単に虐めたくなるのが性分なんだろうと思ってたけど、こっちに来てから男相手も経験して、それに性的な欲求が混じってたってのを初めて自覚した。
真面目そうで真剣な顔つきを見てると、その顔を歪ませて、虐めて泣かせて滅茶苦茶にしてやりたくなる。
たどたどしい英語は観光客なんだろう、一生懸命覚えてきたらしい単語だけ、自分の順番が回ってくる度に一言ゆっくりはっきり繰り返す。
“Hit me.”
もう一枚カードを呉れって言ってるだけなのは分かっちゃいるけど、可愛い口でそう言われると思わずクラクラした。大きな瞳が伏せられて眉を寄せると、可愛い口元をキュっと引き締めて、配られたカードを引き寄せて見詰める。その顔に見とれた俺は、カードを数えるのを忘れて馬鹿馬鹿しいミスを何度も繰り返した。
さすがに負けはしなかったけど、何の稼ぎもないままに、その子がテーブルから立ち上がると、俺もその晩の稼ぎは諦めてその子の後をつけた。
スロット・マシーンの並んだフロアに来ると、その子が何人かで固まってる日本人と思しきグループに手を振った。若くみえるけど、実際は大学生くらいだろうか、同い年くらいの男の子が二人、女の子が一人、大げさに手を振り返す。
「どうだった、智也?ねえ、勝てたの?」
智也って呼ばれた彼が首を振ると、悔しそうに答えた。
「全然、駄目。やっぱ、ネットでチョコっと練習しただけじゃ無理みたい。」
男の子達が口々に、
「やっぱ止めとけって言ったじゃん。」
「100ドルくらい負けたんだろ、勿体ねー。」
って声を掛けるのを無視すると、智也君が膨れっ面で空いたスロット・マシーンに腰掛けた。
一番安いスロット・マシーンに1セント硬貨を入れながら、しばらく様子を伺ってると、女の子は智也君じゃなくて別の男の子の彼女みたいだった。やっぱり大学の友達同士で旅行に来てるらしい。少し年齢より幼く見えるけど、皆育ちが良くていわゆるちゃんとした家庭の子女って感じだった。
そのうちカップルの二人が手を振ってフロアから消えた。多分智也君達とは別々の部屋を取ってるんだろう。智也君ともう一人カズって呼ばれた子が残った。
「ちぇ、いいなあ。俺も次は彼女と来たいよ。」
「カズが悪いんじゃん、知美ちゃんと別れるから。」
「しょーがねーだろ。あいつしつこいし煩いもん。智也だって知ってんじゃん。いっつもいっつも俺の携帯鳴らしてさ。見張られてるみたいで、たまんないっつーの。」
硬貨を入れては失うだけのスロット・マシーンには直ぐ飽きたみたいで、智也君が立ち上がると言った。
「俺、やっぱりもう一回やってみる。」
「止めとけよ。俺、もう部屋に戻るぜ。」
「いいよ。先行ってて。」
「危なくないか、一人で?」
「大丈夫だよ。このホテルから出ないもん。」
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