帰省

6

ライン ドット

でも、この間からやたらとピリピリしてるのって、ひょっとして祥平も緊張してるのかな?週末でいつもよりはずっと空いてる電車に乗ってから、聞いてみた。

 

「あのさ、挨拶の仕方ってわかるよね?」

「初めまして、だろ。」

「うん。自分の名前を言って、宜しくお願いしますって。」

「友達連れてくって言ってあるんだろ?あんまり堅苦しいのも変じゃん?」

「あ、そっか。」

「ま、その場のノリで適当にいこうぜ。」

 

とは言うものの俺も緊張してきた。実家に帰るのに緊張するのって初めてだ。

 

駅に着いたっていう簡単な電話を入れて、家の前に立つと俺はまず深呼吸をした。

 

「ここ?」

「うん。」

「結構でかい家じゃん。」

「兄貴の家族と一応2世帯だから。」

 

ドアベルを鳴らすと、

 

「お帰り!」

「久し振り!」

「いらっしゃい!」

「元気そうだな。」

 

色んな声が飛び交う。俺が3年振りに戻って、しかもアメリカから友達連れて来るって言ったせいか、玄関に総出で出迎えられた。

 

「敬吾おじちゃん、いらっしゃい。」

 

姪っ子も弟の手を握って恥ずかしそうに挨拶する。

 

「マユちゃん、大きくなったねえ。ター君も。」

「まあ、玄関でなんだから、上がんなさい。お友達もどうぞ。」

「はい、お邪魔します。」

 

ゾロゾロと皆でリビングに入る。俺と祥平がソファに座ると、兄貴と親父が姪っ子と甥っ子を膝に乗せてラブシートに腰掛け、お袋と義姉が椅子を持ってきて座った。

 

全員の視線が何となく祥平に向く。

 

「初めまして、敬吾君の友人で祥平って言います。今日はお招きありがとうございました。これ、お土産です。良かったらどうぞ。」

 

そう言ってワインを差し出す。

 

(おおーっ!やれば出来るじゃん。)

 

「あら、わざわざ済みません。」

「お父さん、これお好きですよね。」

「敬吾はいつも手ぶらで来るのになあ。」

「そんなことないじゃん。」

「マユには?」

「じゃあマユちゃんにはチョコレート。」

 

とにかくワーワー賑やかで、全員が一度に喋り出すから中々肝心の話が切り出せない。

 

皆も、何で俺がわざわざ今回に限って、正月でも無いのに友達を連れて帰国したのか?しかも何で実家の方には何も言わずに来て、姉貴の所に泊まっているのか?色々聞きたそうで、でも祥平の手前、中々聞けないでいるみたいだった。

 

その内、マユちゃんが祥平の顔をジーっと見て、

 

「お兄ちゃん、モデルみたい。」

 

って言い出した。

 

ギクッ!最近の子供はこういうこと言うのか?

 

「ありがとう。」

 

祥平がにっこり笑うと、マユちゃんが親父の膝から飛び降りて、俺の方に寄ってきた。頭を撫でてあげると、俺の膝を掴んで恥ずかしそうに祥平を見る。

 

「お兄ちゃんと座る?」

「うん。」

 

そう言うと、ピョコンと祥平と俺の間に割り込んだから、義姉とお袋が「あらあら、おませさんねえ。」とか言って顔を見合わせてコロコロ笑った。

 

「マユちゃんは幾つなの?」

8つ。」

「そっか、しっかりしてるね。」

「マユ、お父さんよりお兄ちゃんがいいのか?」

「うん。」

 

ゴホッと親父がわざとらしい咳をした。

 

「ところで、祥平さんは敬吾とはいつからお知り合いで…」

 

俺は、親父にここで誘導質問されちゃたまんないと思って、慌てて遮った。

 

「親父!」

「なんじゃ、いきなりでかい声出しおって。お前に話はしちょらん。正月にも顔見せんち思っちょったら、コソコソと加奈子の所に行っとる。なにを考えちょるか!」

 

…親父は東京生まれ。

 

その癖、気が向くと突然訛りだす。爺さんが子供の頃に上京してきたっていう話だから、親戚だって皆こっちに居て、鹿児島の方に行くことなんて無いのに。

 

「俺、親父とお袋に話があるんだよ。兄貴にも義姉さんにも聞いて欲しいんだ。」

「じゃあ、マユちゃんとター君はお部屋で遊んでましょうね。」

 

俺の真面目な口調で何か察してくれたのか、グズがるマユちゃんと退屈そうな甥っ子を連れて、義姉が2階の方に行った。

 

俺がそこでギュッと祥平の手を握ると、親父と兄貴が顔を見合わせ、お袋が目を丸くした。再び親父のわざとらしい咳払いがリビングに木霊する。

 

「ごめんなさい。マユちゃんがどうしてもこっちに来たいって…」

 

俺の真剣な表情に驚いたのか、固く握った手に気づいたせいか、リビングに戻ってきた義姉が困ったような顔でお袋を見た。

 

何か聞いて欲しいと思ったけど、誰も何も言わない。祥平を見ると俺に手を握られたまま、目を伏せて黙って俯いていた。

 

(こいつにこんな顔させたくない。)

 

そう思った途端に勇気が出た。

 

「俺、アメリカで市民権取ったんだ。あっちで永住しようと思ってる。」

 

何か言いかけようとする親父を遮って続けた。

 

「最後まで黙って聞いて。俺、今こいつと、祥平と一緒に住んでる。祥平は俺にとって、俺の一番大切な人で…俺、俺達、愛し合ってるんだ!」

 

きつく握り過ぎて痛いかもしれないと思ったけど、俺の手が硬直してしまって祥平の手を離せない。最後はほとんど叫ぶように宣言すると、心臓がドキドキして汗がダラダラ流れ出した。

 

部屋がシーンと静まり返って、その沈黙に耐えられなくて、もういい加減親父が怒鳴り出してくれないかと思い出したくらいだった。その時、

 

「敬吾は俺にとっても大事な人です。敬吾の家族を悲しませたくなかったけど、俺には敬吾が必要なんです。俺にはもう家族はいないから…敬吾だけが俺の家族だから。」

 

震える声で、だけどはっきりと祥平が言った。お袋が「あらまあ」とか「それはまあ」とか呟いた後、義姉が聞いた。

 

「祥平さんのご両親はお亡くなりになったの?」

「いえ、縁を切りました。8年以上、会ってません。」

「そう…」

 

それを聞いたお袋が、

 

「お父さん。」

 

って言って肘で親父の横腹をを突ついた。すると「う」とか「あ」とか意味不明の音を発して、親父がゴホゴホ咳をする。

 

「ま、どういう事情でも、親子が縁を切るなんちゅうことはいかんの。そりゃ、いかん。」

「親父…。」

「お前は、あれか…その…あー、なんじゃ…昔は、ほれ…」

 

口篭もる親父を遮って、兄貴が口を出した。

 

「お前、大学の時は女の子と付き合ってたよな。」

「アキは昭彦。男の人だよ。」

 

親父が息を呑むグッというような音がして、兄貴も呆気に取られた顔をした。

 

「俺は昔からそうだよ。女の子が好きだったことも、付き合った事だって一度もないよ。」

 

フーッって音を立てて、親父が大息を吐いた。

 

「それで祥平さんは、敬吾さんとはどうやってお知り合いに?」

 

人の良い義姉が、目を白黒させる親父と兄貴に気を遣いながら聞いた。

 

「偶然です。敬吾が市民権を取得した会場に俺も居て、それから付き合い始めました。」

「そうですか。いつからお付き合いされてるんですの?」

「もう2年近く。」

「まあ2年も!」

 

それからお袋と義姉が、かわるがわる祥平と俺に話し掛けた。ちょっとずつ緊張が緩んだ俺は、皆にやっと俺達のことを話せるのが嬉しくて、祥平の自慢を始めた。そのうち兄貴も話に加わり出す。

 

「へー、すごいな。若いのにもう博士号とか持ってるんだ。」

「そうだよ。祥平はすっごい頭良いんだ。」

「医学部の学生さんなんて大変そうよねー。」

「うん。時々徹夜したりもするんだよ。」

 

なんとなく会話が弾む中、親父だけがムスッとしたまま口を利かない。会話が途切れたところで、

 

「敬吾、お前と話がある。」

 

と言い出し、

 

「お父さん…」

 

そう言いかけたお袋に煩そうに手を振ると、

 

「他の者は遠慮しとって貰おうか。」

 

って偉そうに宣言した。こういう時にエセ鹿児島弁を使いたがるから始末に負えない。

 

「それじゃあっと。夕飯の準備しますね。祥平さんは2階でマユの相手お願いできますか?」

「じゃあ俺、手伝います。」

「あら、お客さんにそんなこと。お義母さんと私でやりますから。」

「いえ、日本の家庭料理習いたいんで、出来れば是非手伝わせて下さい。」

「まあ、そうですか?でもそんな大したものは出来ませんよ。」

 

お袋と義姉がお上品に笑って、皆が賑やかに台所の方に向かう中、

 

「じゃあパパ、マユとター君の様子見て下さる。」

 

って義姉が兄貴に声を掛けた。

 

「お、よし。」

 

兄貴が救われたように2階に上がって行く。男ってこういう時、ほんと居場所ないよな。

 

―――そして誰も居なくなった。

ライン ドット

「アツ姫」が結構好きで、思わずイタイ鹿児島弁を使ってしまいました^-;

 

大きな勘違いをご指摘頂いた方、本当にありがとうございました! 早速訂正させて頂きましたm(_ _)m

 

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