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次の朝は早々と目が覚めた。
今、何時だろう?ああ、まだ5時なんだ。なんか寒い…。
あれ、祥平は?
窓の外を見ると、重苦しい曇り空から静かに雨が降っていて、蒸し暑かった昨日に比べて、ひんやりと肌寒い。隣に寝ていたはずの祥平の姿が見えなくて、俺はスウェットを羽織るとリビングを覗いてみた。
(祥平?)
ほっそりした後ろ姿が何だか淋しそうに見えた。雨に濡れるだろうに、バルコニーに裸足で立ってボンヤリ外を見ている。
マンションの手前は小さな公園で、その先も少し普通の住宅街が続く。そのお陰でバルコニーからは電車の駅まで見渡せた。
ひょっとして…
祥平の家族もこの東京のどこかに居るはず。まさか生まれ育った街や家を忘れてしまった訳じゃないだろう。
会いに行きたい?
「祥平?」
驚かさないようにそっと声を掛けると、ビクッと肩が震えた。
何も聞けなくて…何を言っていいか分からなくて、俺はその肩をそっと後ろから抱きしめた。
「今朝は寒いよ。中に入ろう。ね?」
「うん。」
ラグで足を拭くと、祥平が俺の肩に顔を凭せ掛けてしまった。
「まだ早いからもう少し寝ようか。」
どれくらい外に立っていたのか、いつもは熱い祥平の肌が冷たくてドキッとする。
布団に横になると、祥平が俺にピッタリくっついて囁いた。
「抱いてよ、敬吾。」
「う、うん。」
リバってるかどうかはともかく、時々祥平はこうやって俺に「抱いて。」って言う。俺はそう言われれば拒んだ事は無いし、そう言われなければ俺の方から「抱かせろ。」なんて強制したりはしない。
問題はそういうことが滅多になくって、祥平も慣れないし、俺も慣れないから、いつまで経ってもちっとも上手くいかないってこと。いい加減なんとかしたいんだけど、祥平はそれで良いって言うし…。
「ごめんね。」
「謝んないでよ。そんな、悪いことでもしたみたいに。」
「けど…」
「いいんだってば。そんな顔するなよ。それよりキスして。」
優しく、軽く、触れるだけのキスを落とすと、頭を抱え込まれて深く舌を吸われた。そのままゆっくりお互いの身体に手を回して、キスだけで繋がる。
真っ直ぐな背中、すべすべした肌、無駄の無い奇麗な筋肉。指ですっと伸びた背骨を軽くなぞった。
「くすぐったいよ、敬吾。」
そう話し掛けるのをキスで塞ぐ。そして、どうやら俺はそのまま眠ってしまったらしい。リビングからの話し声で目が覚めた。
(あれ?俺、ひょっとして自分だけイッて、その後、散々キスして祥平のこと煽っといて…寝ちゃったの?ひぇええー、最低!)
布団から顔だけ出してると、ガラッと和室の戸が開いた。
「いい加減に起きなさいよね。今何時だと思ってるの。祥平君とっくに起きてるわよ。和樹君だってもう仕事に行っちゃったし。あたしももう出かけるから。鍵は祥平君に預けたから、6時ぐらいには戻って来てよ。」
そうポンポン言い捨てて、姉貴はどうやら仕事に行ったらしい。
「寝かしといていいって言ったんだけど。」
「いいよ。もう起きるから。」
「今日は友達のギャラリーに行くんだろ?雨、上がったぜ。」
「ほんとだ。あの…その前に、ちょっと寄り道してもいいかな?」
「いいよ。どこ行くの?」
俺の学校の頃の友達とは、もうあんまりど交流がない。だけど何人かの友達とはメールのやり取りだけはしてる。結婚して子供が出来た友達とは共通の話題も無いし、もう殆ど連絡取り合わなくなってるけど、我が道を行ってる友達とはそれなりに話が合う。
山口君っていうのは、俺と同じ理工学部の出身だけど、その後CGを勉強して、今ではちょっと知られたアーティストになってる。彼の作品が六本木にあるギャラリーに展示されてるっていうんで、せっかくだから見に行くって連絡してあった。
そこからちょっと遠くなるけど…
ワインを渡したいからって連絡したら、「忙しくて会えそうもない。」ってアキから返事があった。会社を作ったっていうから忙しいのはしょうがない。
でもアキの恋人が、俺が学生の頃しばらく働いてたコンビニに居るって聞いて、どうしてもその人には会ってみたかった。
(ワイン、彼からアキに渡して貰えばいいよね?)
「そういうことしない方がいいんじゃねー?」
「そうかなあ?ちょっと顔見て挨拶するだけだよ。」
「ま、勝手にすれば。」
そのコンビニは駅から5分くらい歩いた所にある。ちょっとドキドキしながら入り口でグズグズしてると、祥平がサッサと中に入って行ってしまった。
(この人?)
写真よりはずっと可愛らしい顔立ちの人で、思ったより小柄だ。じっと見てると目が合って、その瞬間「あっ!」っていう声がした。
「関谷さん…ですよね?」
「あ、あの、はい。」
うわっ、なんで俺の顔わかったんだろ。アキが俺の写真見せたとか?
「ごめんなさい、いきなり仕事場に来ちゃって。アキに忙しいって言われちゃって、その、恋人ってどんな人かなって気になって。」
「え?ええ?恋人って…僕が?」
「はい。アキからメール貰ったんだけど…違うの?」
「あ、いえ。その、はあ…。」
あれ?でも赤くなって俯いてるってことは、単に照れてるのかな?
「これ、もし良かったら。」
俺はそう言うと、ワインの入ったギフトバッグを突き出した。
「ワインはお好きですか?」
「僕はあまりよくわかりませんけど、アキは、あ、あの…狩野さんは、好きだと思います。」
そっか。この人もアキって呼んでるんだ。
「これ頂戴。」
2人で何となく黙り込んでると、祥平がレジにポンっとコンドームの箱を放り投げた。
「おい!」
「なに?いいじゃん物は試し。」
俺は繊細だから使い慣れたものの方がいいかもしれない、とか言って一箱持ってきたくせに、何も今買わなくても。コンビニなんて一杯あるのにー。
そして、コンドームの箱を取り上げてスキャンする彼の横顔に向かって、祥平が低い声で呟いた。
「あんたもさ、可愛い声で鳴きそうだよね。」
「え?」
「こ、コラ!なに失礼な事言ってんだよ!謝れ!」
慌てる俺を無視して、平然とした顔で祥平が続けた。
「いいじゃん。誉めてあげたの。あんたさ、可愛い顔してんだから、あのロクでもない冷血動物は止めといたら。」
「おい!ご、ごめんね。気にしないで、こいつ頭おかしいから。」
「あの…1,980円になります。」
「払っといて。」
「あ、ちょっと…おいって!あっ、済みませんでした、突然おじゃまして。あの、アキに宜しく。」
お釣を貰ってコンビニを出ると、スタスタ歩いていく祥平を走って追いかけた。
「なんだよ。感じ悪いだろ!」
「俺は悪くないよ。お前が鈍いの。あのアキって奴も。」
「なに?嫉妬してんの?俺は別に…」
その途端腕を掴まれて、凄い勢いで路地の奥に引きずり込まれた。
「ちょ…止め…なにして…や…」
唇を塞がれて舌を絡めとられる。祥平の手が服の下に滑り込んで、愛撫し始めた。頭を振って逃げようとすると、服の上からアソコを包み込むように揉まれる。
「ふっ…んっ…やっ…やめ…」
誰かが歩道を通れば昼間だから丸見えだ。膝から力が抜けそうになったけど、懸命に祥平を蹴り上げた。それでも止めてくれなくて、無言のまま暴れてるとようやく手を離してくれた。その頃には俺もすっかり感じてしまっている。
「どうすんだよ、こんなとこで…。」
「どうして欲しい?」
耳元で囁かれると、背中がピクっと震えた。
「部屋に戻る?今、誰も居ないよ。大丈夫、まだ時間早いから、また出掛ければいい。」
「歩けない。」
「タクシー止めよう。」
「こんな昼間から無理だよ。」
「いいから…ほら、立てる。」
通りに戻って、しばらく待ってると空車が来て、中野方面に行くって言うと乗せてくれた。けどタクシーに乗った途端に、祥平がまた拙い所に触ってくる。無言で押しのけようと両腕を突っ張ってると、祥平が運転手に声を掛けた。
「気になりますか?」
「いや、別に…色んな人居ますから。座席汚さないでくれれば、こっちは気にしませんよ。」
「ほら、暴れるなって。」
「俺が気にするの!や、やだって…ああっんっ…ふっ…はあっ…」
もう訳わかんない…座席の背に押し付けられて、首筋を優しくキツク吸われ、キスと交互に繰り返されると、頭がボウっとしてきた。
しまった。今朝、寝る前にちゃんとこいつをイかせておけば…ああ、くそっ!
ヨロヨロしながらタクシーを降りると、
「お釣はいいです。どうも。」
って言いながら、祥平が俺の財布から勝手に抜き取った諭吉さんを1枚運転手に渡した。それまでムッとしてた運転手が現金に笑顔を見せると、「悪いね。」とか言って走り去る。
エレベーターの中でも服を着たまま犯されるみたいに、ぴったりと身体を重ねたまま離してくれない。部屋のドアを開けると、そのまま玄関先に倒れこんだ。
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