帰省

4

ライン ドット

次の朝は早々と目が覚めた。

 

今、何時だろう?ああ、まだ5時なんだ。なんか寒い

 

あれ、祥平は?

 

窓の外を見ると、重苦しい曇り空から静かに雨が降っていて、蒸し暑かった昨日に比べて、ひんやりと肌寒い。隣に寝ていたはずの祥平の姿が見えなくて、俺はスウェットを羽織るとリビングを覗いてみた。

 

(祥平?)

 

ほっそりした後ろ姿が何だか淋しそうに見えた。雨に濡れるだろうに、バルコニーに裸足で立ってボンヤリ外を見ている。

 

マンションの手前は小さな公園で、その先も少し普通の住宅街が続く。そのお陰でバルコニーからは電車の駅まで見渡せた。

 

ひょっとして

 

祥平の家族もこの東京のどこかに居るはず。まさか生まれ育った街や家を忘れてしまった訳じゃないだろう。

 

会いに行きたい?

 

「祥平?」

 

驚かさないようにそっと声を掛けると、ビクッと肩が震えた。

 

何も聞けなくて何を言っていいか分からなくて、俺はその肩をそっと後ろから抱きしめた。

 

「今朝は寒いよ。中に入ろう。ね?」

「うん。」

 

ラグで足を拭くと、祥平が俺の肩に顔を凭せ掛けてしまった。

 

「まだ早いからもう少し寝ようか。」

 

どれくらい外に立っていたのか、いつもは熱い祥平の肌が冷たくてドキッとする。

 

布団に横になると、祥平が俺にピッタリくっついて囁いた。

 

「抱いてよ、敬吾。」

「う、うん。」

 

リバってるかどうかはともかく、時々祥平はこうやって俺に「抱いて。」って言う。俺はそう言われれば拒んだ事は無いし、そう言われなければ俺の方から「抱かせろ。」なんて強制したりはしない。

 

問題はそういうことが滅多になくって、祥平も慣れないし、俺も慣れないから、いつまで経ってもちっとも上手くいかないってこと。いい加減なんとかしたいんだけど、祥平はそれで良いって言うし

 

「ごめんね。」

「謝んないでよ。そんな、悪いことでもしたみたいに。」

「けど

「いいんだってば。そんな顔するなよ。それよりキスして。」

 

優しく、軽く、触れるだけのキスを落とすと、頭を抱え込まれて深く舌を吸われた。そのままゆっくりお互いの身体に手を回して、キスだけで繋がる。

 

真っ直ぐな背中、すべすべした肌、無駄の無い奇麗な筋肉。指ですっと伸びた背骨を軽くなぞった。

 

「くすぐったいよ、敬吾。」

 

そう話し掛けるのをキスで塞ぐ。そして、どうやら俺はそのまま眠ってしまったらしい。リビングからの話し声で目が覚めた。

 

(あれ?俺、ひょっとして自分だけイッて、その後、散々キスして祥平のこと煽っといて寝ちゃったの?ひぇええー、最低!)

 

布団から顔だけ出してると、ガラッと和室の戸が開いた。

 

「いい加減に起きなさいよね。今何時だと思ってるの。祥平君とっくに起きてるわよ。和樹君だってもう仕事に行っちゃったし。あたしももう出かけるから。鍵は祥平君に預けたから、6時ぐらいには戻って来てよ。」

 

そうポンポン言い捨てて、姉貴はどうやら仕事に行ったらしい。

 

「寝かしといていいって言ったんだけど。」

「いいよ。もう起きるから。」

「今日は友達のギャラリーに行くんだろ?雨、上がったぜ。」

「ほんとだ。あのその前に、ちょっと寄り道してもいいかな?」

「いいよ。どこ行くの?」

 

俺の学校の頃の友達とは、もうあんまりど交流がない。だけど何人かの友達とはメールのやり取りだけはしてる。結婚して子供が出来た友達とは共通の話題も無いし、もう殆ど連絡取り合わなくなってるけど、我が道を行ってる友達とはそれなりに話が合う。

 

山口君っていうのは、俺と同じ理工学部の出身だけど、その後CGを勉強して、今ではちょっと知られたアーティストになってる。彼の作品が六本木にあるギャラリーに展示されてるっていうんで、せっかくだから見に行くって連絡してあった。

 

そこからちょっと遠くなるけど

 

ワインを渡したいからって連絡したら、「忙しくて会えそうもない。」ってアキから返事があった。会社を作ったっていうから忙しいのはしょうがない。

 

でもアキの恋人が、俺が学生の頃しばらく働いてたコンビニに居るって聞いて、どうしてもその人には会ってみたかった。

 

(ワイン、彼からアキに渡して貰えばいいよね?)

 

「そういうことしない方がいいんじゃねー?」

「そうかなあ?ちょっと顔見て挨拶するだけだよ。」

「ま、勝手にすれば。」

 

そのコンビニは駅から5分くらい歩いた所にある。ちょっとドキドキしながら入り口でグズグズしてると、祥平がサッサと中に入って行ってしまった。

 

(この人?)

 

写真よりはずっと可愛らしい顔立ちの人で、思ったより小柄だ。じっと見てると目が合って、その瞬間「あっ!」っていう声がした。

 

「関谷さんですよね?」

「あ、あの、はい。」

 

うわっ、なんで俺の顔わかったんだろ。アキが俺の写真見せたとか?

 

「ごめんなさい、いきなり仕事場に来ちゃって。アキに忙しいって言われちゃって、その、恋人ってどんな人かなって気になって。」

「え?ええ?恋人って僕が?」

「はい。アキからメール貰ったんだけど違うの?」

「あ、いえ。その、はあ。」

 

あれ?でも赤くなって俯いてるってことは、単に照れてるのかな?

 

「これ、もし良かったら。」

 

俺はそう言うと、ワインの入ったギフトバッグを突き出した。

 

「ワインはお好きですか?」

「僕はあまりよくわかりませんけど、アキは、あ、あの狩野さんは、好きだと思います。」

 

そっか。この人もアキって呼んでるんだ。

 

「これ頂戴。」

 

2人で何となく黙り込んでると、祥平がレジにポンっとコンドームの箱を放り投げた。

 

「おい!」

「なに?いいじゃん物は試し。」

 

俺は繊細だから使い慣れたものの方がいいかもしれない、とか言って一箱持ってきたくせに、何も今買わなくても。コンビニなんて一杯あるのにー。

 

そして、コンドームの箱を取り上げてスキャンする彼の横顔に向かって、祥平が低い声で呟いた。

 

「あんたもさ、可愛い声で鳴きそうだよね。」

「え?」

「こ、コラ!なに失礼な事言ってんだよ!謝れ!」

 

慌てる俺を無視して、平然とした顔で祥平が続けた。

 

「いいじゃん。誉めてあげたの。あんたさ、可愛い顔してんだから、あのロクでもない冷血動物は止めといたら。」

「おい!ご、ごめんね。気にしないで、こいつ頭おかしいから。」

「あの…1,980円になります。」

「払っといて。」

「あ、ちょっとおいって!あっ、済みませんでした、突然おじゃまして。あの、アキに宜しく。」

 

お釣を貰ってコンビニを出ると、スタスタ歩いていく祥平を走って追いかけた。

 

「なんだよ。感じ悪いだろ!」

「俺は悪くないよ。お前が鈍いの。あのアキって奴も。」

「なに?嫉妬してんの?俺は別に

 

その途端腕を掴まれて、凄い勢いで路地の奥に引きずり込まれた。

 

「ちょ止めなにして

 

唇を塞がれて舌を絡めとられる。祥平の手が服の下に滑り込んで、愛撫し始めた。頭を振って逃げようとすると、服の上からアソコを包み込むように揉まれる。

 

「ふっんっやっやめ

 

誰かが歩道を通れば昼間だから丸見えだ。膝から力が抜けそうになったけど、懸命に祥平を蹴り上げた。それでも止めてくれなくて、無言のまま暴れてるとようやく手を離してくれた。その頃には俺もすっかり感じてしまっている。

 

「どうすんだよ、こんなとこで。」

「どうして欲しい?」

 

耳元で囁かれると、背中がピクっと震えた。

 

「部屋に戻る?今、誰も居ないよ。大丈夫、まだ時間早いから、また出掛ければいい。」

「歩けない。」

「タクシー止めよう。」

「こんな昼間から無理だよ。」

「いいからほら、立てる。」

 

通りに戻って、しばらく待ってると空車が来て、中野方面に行くって言うと乗せてくれた。けどタクシーに乗った途端に、祥平がまた拙い所に触ってくる。無言で押しのけようと両腕を突っ張ってると、祥平が運転手に声を掛けた。

 

「気になりますか?」

「いや、別に色んな人居ますから。座席汚さないでくれれば、こっちは気にしませんよ。」

「ほら、暴れるなって。」

「俺が気にするの!や、やだってああっんっふっはあっ

 

もう訳わかんない座席の背に押し付けられて、首筋を優しくキツク吸われ、キスと交互に繰り返されると、頭がボウっとしてきた。

 

しまった。今朝、寝る前にちゃんとこいつをイかせておけばああ、くそっ!

 

ヨロヨロしながらタクシーを降りると、

 

「お釣はいいです。どうも。」

 

って言いながら、祥平が俺の財布から勝手に抜き取った諭吉さんを1枚運転手に渡した。それまでムッとしてた運転手が現金に笑顔を見せると、「悪いね。」とか言って走り去る。

 

エレベーターの中でも服を着たまま犯されるみたいに、ぴったりと身体を重ねたまま離してくれない。部屋のドアを開けると、そのまま玄関先に倒れこんだ。

ライン ドット

 

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