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その5月最初の土曜日、祥平にスタンフォードに行って、キャンパスを見てみようって誘われた。
「広い…。」
俺のコンドの近くにあるけど、用が無いから一度も行ったことはない。改めて280号を降りてキャンパスに向かうと、その敷地の広さに驚いた。キャンパスへ続くサンドヒルロードの両側には大学の施設が並び、牛がのんびり草を食べている牧草地も大学の敷地だ。
メインのキャンパス自体も広い。なんせ、一つの街になってる。俺はパロアルトっていう隣接する市の中にキャンパスがあるんだと思ってたけど、違った。スタンフォード市なんだ。病院、郵便局、警察、ガスステーション、美術館、そして消防署まである独立した街だ。
取りあえず車をキャンパスの中心に近いパーキングに停めて、フーバータワーっていう塔に昇ってみた。
「うわあ…ほんっとに広いね。」
なんせ端の方の病院とかが見えない。その向こうにはショッピングセンターまである。
「まあ、東のハーバード、西のスタンフォードって言うし…ま、最近スタンフォードの方がクオリティが高いって言われてるけど。」
「ふーん。」
祥平は簡単にここの研究室に就職が決まったけど、かなり難しい就職先だったはずだ。俺にはどうせ話しても分からないと思って何も言ってくれないけど、やっぱ祥平って凄いんだよなー。
塔のてっぺんに吹き上げる風に髪が揺れて、煩そうに掻きあげる指が長い。鼻筋が通った整った横顔、睫の長い瞳、すっと伸びた背中、ほっそりした腰、小さいけど掴むとプリっとして可愛いお尻、長くて奇麗な足、足の爪まで貝殻みたい。
これで頭まで良いなんて、世の中ほんとに不公平。
ちょっと目を寄せた考え深そうな表情は、これから先ここで打ち込むことになる研究に思いを巡らせてるのかもしれない。そう思って俺も黙って感慨に浸ってたら、急に祥平が言った。
「空は青、雲が白くて、木は緑。」
ん?
展望台の端に寄ると、俺もそこから空を見上げた。初夏の真っ青な空には雲ひとつ無い。
(気持ちいいー!こういうのゴージャス・サマー・ディって言うんだよな。)
でもどう見ても…
「雲なんてないけど?」
そしたら祥平が真面目な顔で答える。
「だから俳句だよ。」
「は?」
「五、七、五だろ。詩っていうのは、実際にないもんも描写するんだよ。」
いや、俳句って…。
「ふーん。」
「何だよ?」
「いや、誰にでも苦手なものってあるんだなーって。」
祥平が「ふんっ。」って小さく鼻を鳴らすと、“poetry is not my thing”って言いながら、俺のおでこを軽く人差し指で突いた。
そうやって俺の目を見てクスッて笑う顔が、堪らなく可愛い。
「俺さ、ずっと祥平の側に居て祥平のこと支えるから、祥平は頑張って好きな研究して!お金は俺が稼ぐから。祥平のためなら俺、なんでもするから。祥平は研究だけに没頭してくれたら…」
思わずそう張り切って言ったら、急に変な顔で見られた。
「またそういう気持ち悪いこと言う。俺のためって…お前は他にやりたいこととか、夢とかなんにも無いわけ?そんな詰まんない奴、俺、直ぐ飽きるぞ。」
ああ…ドッと落ち込んだ…。
今、すっごい感動すること言ったつもりだったのに…気持ち悪いって…飽きるって…。
俺っていっつもこう。
確かに祥平は刺激的だ、色んな面で。
あれから牧師さんの部屋にあった本を図書館で借りて読んでみた。メチャ難しいくて最初のチャプター読んで挫折したけど…。
けど、大意はわかった。フコーさんっていうのはフランス人でゲイの哲学者で、歴史に対する独特の解釈を提示した人だ。偏見と差別に生涯掛けて理論武装した。祥平が良く言う、クリティカル・シンキング。
――メディアや常識によって作られた価値観をボケっと受け入れてはいけない。何故ということをいつも考えるべし。
読んでも無いくせに偉そうだけど…。
俺に色んな事を考えさせてくれる、思ってもみなかったことに目を向けさせてくれる。飽きるなんて絶対有り得なくて、祥平に付いてくのが精一杯。
俺が逆に祥平に「へえー。」とかって思わせたことって…
「のだめ」を見てたら炬燵のシーンで大笑いしてたけど…祥平も炬燵って未経験らしくって…。
IQサプリとかも時々は一緒に見るよな。
いや、だけどそういうのは違うって。
「漫画しか読まないよな。」
って、前に聞かれて「そんなことない。」とは言ったものの、
「じゃあ何読んだの?」
「アンネの日記とか…」
「アンナ・フランクのダイアリー?いつ読んだんだよ、それ。」
「中学校の読書感想文。」
けど感動して、俺には珍しく何回も読み直したんだ。ドキュメンタリーだって見て、ミード夫人が話してるのを聞いて涙出たし。
けど、愛読書っていったらそれくらい。
「腹減ったな。」
祥平の方は、俺の落ち込みに全然気づいてない。
「うん。」
そう言われてみれば確かにもうお昼近い。
「モールに行けば何かあるだろ。そこまで歩こうぜ。」
「えっ、でもモールって随分向こうじゃない?」
「ああ、ちょっと歩けば直ぐだよ。」
いや、その“ちょっと”も“直ぐ”も怪しいって。
「だから30分くらい。」
「ええー、お腹空いたから車で行こうよ。」
「ゆっくり歩いてけばいいじゃん。途中メディカルセンターあるから、俺の研究室のあるとこも見せてやれるし。」
ああーあ。帰りも歩いて戻って来なきゃいけないんだけどなー。
「帰りは疲れたらシャトルに乗ろう。」
「シャトル?」
「タダで乗れるバスが走ってるから。土日は本数少ないらしいけど。」
さすが…。ただっ広いキャンパスだけのことはあるわけだ。
少し歩くと右手に広い楕円形の広場があって、どうやらここがキャンパスの中心らしかった。そしてその向いの左手には、ど派手な壁画の教会まである。
「そう、このキャンパスは早死にしたジュニアのために作ったもんだから。モゼリアム、えーっと日本語でなんだっけ?死体置き場もあるぜ。」
「いや、それはモルグだろ?モゼリアムって…納骨堂?」
「あー、それそれ。」
政治と宗教、教育と宗教を分離することはかなり厳しく行われている。スタンフォードは私立だから教会があってもいいんだろうか?
「そうだな。元々コンサーバティブな大学だし。」
「そうなの?リベラルなんじゃないの?」
「まさか…フーバー・インスティチュートだってあるし、前のプロヴォストなんて、あのコンドリーザ・ライスだぜ。未だにキャンパスにオフィス持ってるって話しだし。」
成る程…。そう言えばベトナム戦争反対とかのニュースフィルムに映ってるのって、バークレーばっかだったよな。
「ま、金は在るからな。研究機関としちゃ一流なのは間違いないけど。軍関係の研究費も入るし。」
そう言いながら角を曲がって病院の裏に続く真っ直ぐな道に出ると、右手に小さな美術館が見えてきた。
「そうだ。腹減ってんならここのカフェテリアでサンドイッチでも食う?ついでに見てくか?」
「うん、そうする!」
やれやれ助かった。
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またカタカナだらけ…て、適当に飛ばして読んで下さいm(_ _;)m
B大統領の信任厚いライス国務長官はBの就任後、大統領補佐官としてワシントンに呼ばれ、その後国務長官に抜擢。ちなみに、この方にもレズビアンじゃないかっていう噂がしつこくあります;;