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祥平が帰ってから聞いてみると、
「日本?さあ…こっち来てから一度帰ったきりだから、15年近く行ってないのかな。なんで?」
「あ、いや、あのさ、ひょっとして祥平も一回くらいは行ってみたいかなー、なんて。」
「敬吾、日本に帰りたいの?」
「いや、帰りたいっていうか、ちょこっと遊びに行きたいっていうか。」
「そっか…」
祥平が俺の顔をジッと見詰めると言った。
「敬吾は日本に家族が居るんだもんな。しばらく会ってないんだろ?会いに行けば?」
祥平だって日本に家族が居るはずなのに…。日本に帰ってしまってから一度も連絡を寄越さない祥平の家族。
「あのさ、俺は祥平と一緒じゃなきゃ行きたくないんだよね。出来れば一緒に行って欲しいなあ、なんて。」
俺がそう言うと、祥平が不思議そうに俺を見た。
「だってお姉さんしか知らないんだろ?俺達のこと。」
「そう、そうなんだよね。けど、いつまでも隠しとくの嫌だなって。俺、祥平とずっと一緒にいるつもりだし。その…駄目かな?」
祥平が軽く息を吸い込むのが聞こえた。
「それって…俺を敬吾の家族に紹介したいってこと?」
「うん。俺の自慢の恋人ですって。」
何度か俺を見てパチパチ瞬きしたかと思うと、祥平はクルっと後ろを向いてしまった。
(またやっちゃったかな?そういうの鬱陶しいって思われた?)
「祥平が嫌なら全然どっちでもいいから。親がどう思うかとか俺、別に気にしてる訳じゃないし。」
俺が慌ててそう言うと、後ろ向きのままの祥平が少し掠れた声で言った。
「俺、7月の初め位がいい。」
「え?そ、そう?そうなの?」
「うん…。」
「分かった。まだ時間あるから、チケット取っとく。」
(照れてるのかな?)
そのままキッチンに歩きかけた後ろ姿に声をかけた。
「ありがと。」
とは言え姉貴に背中を押されて、勢いで決心したものの本当に大丈夫なんだろうか?
日本に居た時にポロっとアキの名前を口に出したことがあったけど、幸い女の子の名前だと思われた。アメリカに来た時は、その子と別れて就職も蹴って行ったんだと勘違いされた。
両親も兄貴も兄貴の嫁さんも、俺がゲイなんて考えてもいないに違いない。
(無謀だったかなー。黙ってりゃ分かんないのに。)
けど、毎年毎年、若返るわけじゃなし、結婚、結婚って言われるのが頻繁になるのは目に見えてる。いつまでもコソコソ隠して、祥平を置いて一人で日本に行くのも嫌だ。
まさか勘当するとも言わないだろうし…少なくともお袋だけは。姉貴だっているし、それでいいじゃないか。後は当たって砕けろだ!
そう決心した俺は独立記念日の休みに合わせて、飛行機のチケットを予約した。もう後戻りは出来ない!前進あるのみ!
…って、気持ちを盛り上げてみたものの、チケット買ってから実際帰国するまでには随分時間があるわけで…。
マークとランチに出た時に彼にも聞いてみた。
「マークの御両親はマークのこと知ってるの?」
「ああ、カミングアウトしてるかどうかってこと?」
「う、うん。」
「知ってるよ。ケーゴは?まだ言ってないんじゃない?」
「あ、そう。わかる?」
「だって御両親、日本人でしょ。言いにくいのかなって。」
そう言えば、マークの彼氏のお母さんは日本人のはず。
「君のボーイフレンドは?御家族には話してるの?」
「ううん。だから2人で住まないで、女の子と4人で住んでるんだけど…」
そしてちょっと頭を傾げると付け加えた。
「そのうち言ってくれるって。けど、一人息子だし、お母さんともべったりだから。」
「そっか。」
マークは結構しっかりしてるし、彼氏とも上手くいってるっぽいけど、それなりに悩みもあるわけだ。アキもそうだけど、一人息子っていうのは難しそうだ。
だけど…
「彼のお母さん、日本人なんだよね?」
「そうだけど?」
「いや、日本だとさ、いるらしいんだよね、息子がゲイで喜ぶ母親。うちの姉貴も俺がゲイでなんか嬉しいらしいし。」
「なんで?」
「うーん、俺もよくわかんないけど…あ、あのそういう例もあるってだけだから、皆がそうとは…」
俺がそう言うとマークが軽い溜め息を吐いた。
「まあ、どっちにしても問題は彼のお母さんじゃなくて、お父さんなんだよね。」
「お父さんて白人?」
「うん、軍人なんだ。」
「え?そ、そうなの?」
意外と居るんだよねー、身近に。ミリタリーファミリーって。
「あと2年くらいでリタイアするんだけど、今はあっちから帰ってきてセラピーに行ってる。」
あっちって…つまり中東のアッチ。またヘビー過ぎる話。
「セラピーって、何かあったの?」
あまりにも間抜けな質問だとは思ったけど…。
「さあ…それはわかんないけど。とにかくあっちから帰ったらまず全員強制的にセラピーに行かされるの。やっぱ、見たり聞いたりしなくていいことを見聞きするわけじゃん。」
そうなんだ…。
「でもよかったよね。無事に戻られたんなら。」
「そう、それはね。彼は、多分お父さんがリタイアしたら、僕のこと話そうと思ってるんじゃないかな。」
「リタイアって…今、お幾つなの?」
「まだ40代だけど、リタイアの資格あるから。多分その後も軍関係の仕事請け負ってる会社とかで働くんじゃないかな。」
俺は知らなかったけど、退役軍人つまりUSヴェテランになる資格は決められた年数を勤め上げれば貰えるらしい。その後は大抵軍関係のコネを生かして新たな仕事に就き、お給料を貰いながら軍からの退職金、保険等々のベネフィットも受けられる。
平和な時なら、貧しい家庭の若者が中流の家庭を築くには最良の選択とも言える。
そう、平和な時なら…。
今はやっきになってリクルートしても、応募してくる若者の数は多くない。このまま中東情勢が縺れに縺れれば、ベトナム戦争以来のドラフト制度の復活ってことだって有り得なくはない。
俺だって、祥平だって、マークも、その彼も、そうなれば戦争が人ごとじゃありえない。
(宣誓しちゃったもんなー。)
市民権の資格検査の簡単なテストを受けた時に、試験官の中国人のおじさんに「必要とあればこの国のために武器を持って戦いますか?」って聞かれて、「はあ…」みたいな返事をしたら、「もっと張り切って返事する!」って言われてしまった。
「イェス、サー!」
って馬鹿みたいに答えたけど、正直言って絶対嫌。有り得ないし。その前に日本に帰る。カナダに逃げてやる。
戦争絶対反対。暴力反対。銃も嫌い。例え殺されそうになっても、俺が人を撃つなんてできっこない。せいぜい逃げ足を速くするように鍛えるのみ。
どうかそんな日が来ませんように。これ以上犠牲者が増えませんように。それがアメリカ人であれ…他国の人々であれ…。
「でも、ケーゴがちゃんと家族にカミングアウトするなんて…。上手くいくといいね。応援してるよ。」
「うん。マークには後で報告するね。」
本当に上手く行けば、マークの彼だって勇気づけられるかもしれないし。
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