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その年の俺の誕生日。祥平とちょっとドレスアップしてデートに出掛けた。
俺としては家でゴロゴロしてても全然オッケーだったんだけど、祥平は俺に黙って、オペラハウスで演じられてるSFバレーのチケットを取ってくれてた。
カマっちくって恥ずいんだけど、俺ってばダンスとかバレエ、後はフギュアスケートとか大好き。いつもそういう俺を散々馬鹿にしてたのに、俺の誕生日だからって一緒に行ってくれるって言ってくれた。
夜のオペラハウスにはイブニングドレスで正装した女性や、そうかと思うとジーンズにスウェットっていう人もいて様々だ。
祥平は前髪を少し立てて明るい色に染め、右耳に大きさの違うダイヤのピアスを3個、左の耳にはプラチナのリングを光らしてる。オープンにしたシャツにタイは付けないで、生地の良い身体に合ったジャケット。ベルトの変わりに、ほっそりした腰に薄い銀のチェーンを巻いてる。
こういうカッコが嫌らしくないのは何?
しかも足元は黒っぽいスニーカーって…これで間抜けに見えないって、どういう事だよ?
しかし美人は3日で飽きるっていうし、確かに毎日毎日祥平の顔に見とれてるわけじゃない。だけどこうしてバッチリ決めてると、ほんとに奇麗。周りからもチラチラ視線が飛んでくる。
段々混み合ってきたロビーに立って、プログラムをパラパラ捲ってる祥平の横顔をボーっと見てたら、祥平が顔を上げて照れ臭そうに笑った。
「せっかくチケット買って付き合ってやったんだから、俺の顔ばっか見てないでちゃんとステージ見ろよ。」
「大丈夫だよ。ちゃんとステージも見るから。」
「ステージもって…。」
「ステージだけ見てればいいんだよ。」って祥平が言い掛けた途端、ちょうど案内のお兄さんが現れて、会場内への扉を開けてくれた。
チケットを見せて中に入ると、どっしりした緞帳が下りた、とてもデコラティブな内装。思ったよりずっと広いシアターの、そのかなり前列のオーケストラボックスの近くに座った。
「凄い良い席じゃん。」
「空いてる中で一番良い席取ったから。」
「ありがとう。」
ライトが消えて演奏が始まった、と同時に祥平の頬にキスした。
実はナットクラッカーが見たかったんだけど、それは俺が流感で寝込んでる間に終わってしまっていた。毎年クリスマスに行われる、SFバレーの有名なイベント。
今日の品目はモダンなんで、どうかって思ってたけど、すごくよかった。振り付けが斬新で、特にプリマの女性の流れるような動きに魅せられる。
ダンサーって本当に素敵だ。ほっそりしてるのに力強い。パワーを感じさせる踊りから、軽い羽根のような重力を感じさせない動きまで、ピンと張り詰めた身体は、微かな動きだけで観客の目を釘付けにする。
ああ…そう言えば祥平って、ダンサーみたいな身体なんだ。優雅な線、しなやかな動き、バネのある筋肉。でもほっそり奇麗で…。
「敬吾…ステージは?」
「見てる、見てる。」
つい見とれちった。
オペラハウスの外に出ると小雨が降っていた。クロークに預けておいたコートを羽織る。そのコートの袖にかかるとウールの繊維にただ張り付いてしまうだけの、ほんの霧雨。
それでも寒がりの俺を心配して、祥平が身体に手を回して歩いてくれた。少し立てた祥平の前髪にも霧がかかる。だけど、髪が濡れてしまうことは無いくらいの優しく煙る雨。
車に戻る間、祥平とくっついて歩いた。こういう雨は好き。
こういう夜も、大好き。
その春になって、姉貴からメールが届いた。
“けーちん、元気?しばらくお姉様から連絡がなかったのは何故でしょう?その答えはマイスペースを見よ。”
そう言えば最近頻繁にメールが来なくなっていた。
マイスペースなんて、ちゃんと安全管理してんのかな?
リンクをクリックしてみると、一応俺のアクセスを打ち込まないと入れないように設定はしてある。
俺はマイスペースをシェアするような友達も居ないし、個人情報は何であれネットに載せるのはまっぴらなんで、マイスペースなんて持ってない。祥平のはまるでジャームだかウァームだかの情報交換の場みたいになってる。もちろん個人データや写真なんて一切なし。
姉貴のは個人情報満載。
しかし若い…
ドドーンと自慢気に載せてある写真には、姉貴と背の高い若い男が嬉しそうに手を繋いで笑っていた。
“和樹君と初詣に行きました。二人で何をお願いしたかは秘密です。”
(えらい浮かれとるなー。)
写真を見て呆れてると、家の電話がプルプル鳴った。
「あ、それ多分姉貴だから俺が出るよ。」
祥平にそう声を掛けてから、「ハロー?」って電話を取ると、思った通り姉貴からだった。
「見た?見た?」
「見たよ。えらい若いじゃん。」
「ふふっ、けーちんより年下よ。今、26なの。」
「へー。何してる人?」
「同じ会社の後輩。」
「ええ?会社の同僚なんてありえないって言ってたじゃん。」
「そのはずだったんだけどねー。」
姉貴の勤める外資系の製薬会社に、和樹君が去年トラバーユしてきた。そして入社早々彼のミスで、会社の薬の治験をしてくれてる、大切な病院の先生とトラブったらしい。それを姉貴や他のお局様達が慰めてあげたのがきっかけで、それからも時々一緒に飲みに行くようになった。
そしてある時マンションに泊めてあげたらそうなった…ということらしい。
「まあ、弟のあんたにあんまり詳しい話もなんだけど、あんたと祥平君もあれだから…。若い子って…うふっ、分かるでしょ?」
と、鳥肌が!
「変な笑いかたするなよ。もう切るぞ!」
「冷たいわねー。あんたは散々あたしに見せつけといて、あたしの話は聞いてくれないのぉ?」
ううっ…そう言われると。くそー、姉貴の色ボケ!
国際電話料金、値上げしてくんないかな?値段が安過ぎるのも考えものだと思う。そもそもスカイプ使ってないのって、俺くらい?
「ま、そういう訳だから、あたしとしてはあんたが先に祥平君のこと紹介してくれると、すんごく助かるんだけど。」
「あのなあ…」
俺に結婚はどうする気だってうるさい親は、姉貴にも見合いを勧めたり相当うるさいらしい。その姉貴としては和樹君を親に紹介したいけど、すごく年下ってことできっと反対されると思って躊躇ってるわけだ。
俺が祥平を「恋人です。」って親に紹介すれば、姉貴の方は完全にスルーされると読んでるらしいけど。
(だからって、なんで姉貴のために、俺がわざわざ親に責められに行かなきゃいかんのだ?)
「だってさ、もう1年半だっけ?つき合ってる訳でしょう。一緒に住んでからだって長いんだし。お互い本気なんだから、1度きちんと紹介したらいいじゃない?ずっと隠し通すつもり?祥平君とつき合いだしてから、一遍もこっちに帰ってきてないけど、まさか家族と縁切るつもりじゃないんでしょ?」
うっ、また痛いところを…。
「祥平君さ、秋から新しい大学で就職なんでしょ?だったらその前に一度連れて来なさいよ。和樹君も紹介したいし。うちに泊まってっていいわよ。なんならついでに二人で京都でも遊びに行って来なさいよ。」
日本ねえ…確かにもう3年近く帰ってないよなー。祥平なんていつ日本に戻ったきりだろう。大体あいつ日本になんて行きたくないんじゃないか?
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