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「なんだよ。あいつまた懲りないで敬吾に何か言ってきた?」
「ううん。あのね、サンクスギビング招待されちゃった。」
祥平が不思議そうに俺を見た。
「断ったんだろ?」
「あ、う、うーん。祥平がいいなら俺は行きたいかなって…」
「何だよ急に?」
「ほら、やっぱ皆で賑やかな方が楽しいし…その、ほら、この間みたいに、あれが始まる前に帰れば平気かなって…嫌?」
「ふーん。俺はいいけど。」
「そっか、なら行こう。ジュン君も祥平に会いたいって言ってたし。」
そしてサンクスギビングの当日。その日は、朝から小雨が降って、窓の外が細かい霧に煙っていた。
俺は張り切ってパスタサラダを作り、大き目のタッパに詰めた。祥平がそんな俺を時々ジッと見ながら手伝ってくれた。
ジュン君は祥平の友達なんだし、俺より長い付き合いなんだし…。
例のリフトで昇っていくと、ジュン君が去年と同じように駆け寄って来た。
「ショーン、久し振り。ケーゴも元気?」
「お前、ケーゴにゴチャゴチャちょっかい出すの止めろよ。」
「えー、何回か電話しただけだよー。」
「俺の携帯勝手に見たろ。」
「だって、ショーンに掛けてもいつも中々出てくれなかったじゃん。」
「忙しいの、俺は!暇なアートメジャーとは違うんだよ。」
「ひどーい!」
そう言いながらじゃれてるように見えるのは、俺だけ?
去年とはメンツが微妙に違う。政治の話が大好きな女性のカップルは今年は居なかった。別れたらしい。
男女両刀のガイはデンバーの方にある学校に通いだしたそうで、もうそこには住んでいなかった。その彼女だったアイリスも姿を見せない。
その代わり幾つか新しい顔が混じってる。
知り合いの知り合い。初めて会う人。どこからか人が集まってくる、孤児達のパーティー。
キッチンでパスタに新しいバジルを刻んで混ぜてると、ジュン君がやってきた。
「ケーゴ。ショーン連れてきてくれてありがとう。」
「俺は別に…」
「ううん。彼、ケーゴに夢中だもん。ケーゴが嫌っていったら絶対来ない。」
「あの…またその、途中で帰っちゃうと思うけど…」
「いいよ。顔見れただけで。」
ジュン君がそう言うと、俺の頬にキスした。
彼氏いるのに…。
お金持ちで、こんな凄い家に住んでて、でも感謝祭には恋人を放り出して家族の元に帰る男。台湾人の彼のファミリーは結束が固いらしい。息子がゲイって事は知ってるのかどうか…。
ジュン君の浮き浮きした仕種も、明るくはしゃぐ声も、寄せ集めの友達もどこかズレた台本に沿った舞台を見るようで、なんとなく溜め息が出た。
そんな俺をディナーの間中、祥平がジッと見ていた。そう言えば朝から視線が冷たい。
(俺、なんかしたっけ?)
デザートを食べてそろそろ帰ろうかと思っていた頃だった。小犬みたいな目をした、気の弱そうな男の子に腕を握られて話し掛けられた。振り払っちゃ悪いと思って話を聞いてあげてたら、祥平に肩を掴まれた。
「敬吾、今日は楽しかったか?」
「あ、う、うん。楽しかったよ。やっぱりサンクスギビングは皆といる方がいいよね。」
「そっか、じゃあ今からここで俺とやろう。」
え?
「ん、ちょっと…や、なにして…んっ…ん…」
肩を掴まれたまま、キスされて舌を捻じ込まれた。上から押さえつけられて、腕を突っ張って押し返そうとしたけど、びくともしない。
「ふっ…んん…ぐっ…ん…」
祥平が容赦無く俺の舌を絡め取り、吸い上げる。痛くて息も出来ない。涙に曇った目を開けると、周りに人が集まって見てた。さっきまで普通に話してた人がギラギラした目で俺を見る。
咄嗟に怖くて目を瞑った。
(嫌だ、嫌だ、嫌!)
腕を掴まれて引っ張り上げられ、バルコニーの前のガラスに押し付けられると、シャツの下に祥平の手が滑り込んできて、俺の乳首を思い切り捻った。
「痛い!止めて、お願い、止めて!Please don’t!」
日本語と英語で叫んだけど、祥平は止めてくれない。それも何かのプレイだと思うのか誰も止めてくれない。
「偉そうな顔して、いい子ぶって…お前はそんなに俺らと違うのかよ。」
「なに…どうして…わからな…あっ!」
痛い、痛い!アソコを思いっきり握られて痛みに膝が砕けた。腕を締め付けられて宙づりのまま嬲られる。
「祥平…止めて!嫌だ…怖い、いやっ!」
どうして…
皆の前でレイプされるのかと思った。前を触られても、乳首を嬲られても、怖くて何も感じられない。もう声も上げられなくて、それでも首を振ってNOって言い続けた。
「ううっ…いや…あっ…怖い…いや…」
突然、フッと祥平が腕の力を抜いた。
そのまま床にへたり込んだ俺は、怖くて身体を丸めたまま、椅子の陰に隠れようとズリズリ身体を移動させた。
怖い…祥平がその気なら、俺はこの場で皆に犯られるかもしれない。あいつがいいって言えば…皆…。
頭がカッカして何も考えられなくなった俺が、そのままバルコニーから飛び降りようと、椅子の陰から間合いを計っていると、後ろから祥平の声がした。
「…敬吾…」
「ひっ…」
「ごめん…悪かった。もう帰ろう、な?」
ああ…
もういつもの祥平。
「普通」の祥平。
涙に濡れた目を上げると、ジュン君が気の毒そうに俺を見ていた。
そうか…
さっきまでずっと俺が気の毒そうにジュン君を見てた。
そういう目で見ていたんだ俺は…きっと祥平の事も。
そんなつもりじゃなかったのに、偉そうにしてるつもりじゃ…。だけど、祥平は敏感に俺の中の傲慢さをキャッチする…見逃さない。
車に乗り込んでからも、まだ怖くて身体が震えていた。
「祥平…俺、気に触る事言ったり、したりしたんなら謝る。だけど、俺、俺は祥平の恋人だろ?俺が何かしたとしても、わざと祥平を傷つけようとしてやってるんじゃないってことは知ってるよな?まるで、俺を憎んでるみたいに…どうしてあんな風に…なんで?」
「…。」
「俺を愛してるって言ってくれたの…違うの?やっぱり、俺なんかじゃ…」
俺が泣き始めると、祥平が身体中の空気を吐き出すような溜め息を吐いた。
「…悪かった。なんか、ずっと敬吾に気使わして、同情されてる気して…。そういうの、すっげー嫌で…」
「俺、そんなつもりじゃ…。けど、そんな風に取られたんなら謝る。」
「…俺こそ…ごめん…」
俺を酷く扱ったり、喧嘩したりした時いつもそうするように、その夜も祥平は俺に優しかった。だけど…
どんなに優しくされても、愛撫されても、愛の言葉を囁かれても…その夜、俺はとうとう最後までイケなかった。
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