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次の朝起きると、少し腫れた目をしていた他、祥平は普段とまったく変わりなかった。
「俺じゃあラブに行くから。敬吾の方が帰り早かったら洗濯始めてくんない?もう替えのパンツないし。」
「あ、う、うん。」
「チャオ!」
全部悪い冗談だった…わけない、か。
今でも手に残る震える身体の感触。
(俺は何をしてあげればいいんだろう?)
特に変な所があるわけじゃない。学校にちゃんと通って、むしろ学業面では人よりずっとサクセスしてる。
怒り出すと止まらない時があるし、人の思惑に無頓着っていうより、人の神経を逆なでして喜ぶっていう面はある。
俺と初めて会った時も、わざと俺を怒らせるような真似をした。
機嫌のいい時は誰だって同じ様に振舞うけど、怒らせるとそれで相手の性格が読めるからだって言ってた。
そういう言い方をする時のあいつの顔は酷く冷たい。
だけど表面は「普通」って言えると思う。
つまりそれは祥平が完全に過去を克服してて、「普通」にやっていけてるってことなんだろうか?
けど…冷たく光る銃口…loaded gun…
ブルっと首を振った。あんなものベットの脇に置いてあるって「普通」?1年も一緒に住んでて本当に何も知らなかった。
“弾が込めてあるから絶対触るな”
ならどうしてあんなもの?
会社に居ても、どうしてもその事ばかり考えてしまう。黒光りする銃身がちらついて、仕事をする手が止まる。
“敬吾は俺が怖い?”
その問いかけには直接答えなかった。ううん、答えられなかった。
祥平が怖い?銃が、怖い?
銃は…lethal weapon…
映画のタイトルみたいだけど本当だ。人殺しのための道具。
“今ならもっと上手くやる。外さない。”
くすぶったままの祥平の怒り。
例えその怒りが俺に向けられたもので無いとしても、あいつはそうする必要があると思えば躊躇わずにあの銃で人を殺すだろう、そう思えた。
そしてもう一度誰かに、そして自分に絶望したら…
“今なら外さない。”
冷たく凍った心の一部。
その理由を知ったからって、俺に何が出来るだろう?
このままでいいんだろうか?「普通」にしてる「立ち直った」祥平と何もなかったように、何も聞かなかったように、このまま?
祥平と会って2度目の秋が巡ってくる。俺に話をしたからって祥平のどこが変わった訳でもない。俺も「普通」に接した方がいいのかな、と思ってそれ以上何も聞かないし、何も特別な事はしない。
ただ、意識のどこかに暗く光る銃口を感じてた。
ベットで愛し合っていても、弾を込めた銃身がすぐ側にあることをどこかで意識してしまう。
“今度は外さない…”
俺は時々悪夢にうなされるようになった。
・・・・・・・・・・・・・・
男達が祥平を押さえつけようとしている。
止めようとしても、上手く声の出ない俺はそれでも必死に叫ぼうとしていた。
「その子はまだ子供なんだ。お願いだから触らないで!傷つけないで!」
目の前で祥平の白い裸身が晒され、足が開かされる。
「嫌だ!嫌だ!放して!」
無表情な祥平の代わりに、俺が出ない声を嗄らして叫ぶ。
その瞬間、祥平の顔が真っ赤に染まると、祥平に圧し掛かっていた男が潰れた顔面を見せて倒れた。
「敬吾、もう大丈夫。ほらね?」
手のひらに乗った小さな拳銃…血に染まった祥平…
「いやっ、いやー!」
その時、温かい手が俺を揺さぶった。
「敬吾、敬吾!」
「うー、んー」
「夢だよ、夢。You had a nightmare.」
ああ…夢…。
「泣いてたよ?どんな夢見てたの?ん?」
優しい声…温かい手…胸の鼓動…
自分の心臓が痛い位ドキドキいってたのが、祥平に頭を撫でて貰ってるとだんだん静まってきた。
「何でもない…眠い…」
温かい身体。祥平に触れていると安心出来るのに、それなのに…
怖い?
今年も感謝祭の週末が近づいてきた。去年はジュン君たちと過ごしたけど…。
乱交パーティーって言われて怒ったのは、俺。だけど今となってみれば、祥平には他に行く場所が無かったんだって分かる。何もあんなにプリプリ決め付けて怒る事無かったんだ。
そんな時、ジュン君から電話があった。
「ハーイ、ケーゴ!どうしてる?」
「ハイ、ジュン。元気だよ。」
「ショーンは?いる?」
「まだ帰ってないけど…」
「そっか。」
「あの…俺、映画、送ってもらったけど、やっぱり…」
そう言い掛けると、あっさり言い返された。
「いいの、いいの、その話は。それより今日はさ、サンクスギビングどうするのかな、と思って。」
「あ、う、うん。特に予定は無いけど…」
「じゃあさ、ショーンに聞いてみてくれる?皆、ショーンに会うの楽しみにしてるから。」
「分かった。」
携帯を切ってから思った。
(ひょっとしてジュンは祥平が好きなんじゃないだろうか?)
台湾人の彼氏とはオープン・リレーションシップって言ってた。お互い浮気は自由。けど、それが本当に楽しいのかどうか…。
俺にしょうもない映画の話とかしてちょっかいかけるのも、本当は祥平に構って貰いたいからじゃないかって思った。祥平はもうジュン君とは付き合わないって言ってたけど、それも俺が怒ったせいだ。
大人げなくて心が狭い…俺?
Thanksgiving orphans
祥平が言っていた。感謝祭の休日になっても、他に行き場の無い孤児達。肌を寄せ合い、差し伸べられる手に縋って一晩中仮初めの愛を交わす。
祥平も、きっとジュン君も。
偉そうにそれを見下す権利が、俺のどこにある?
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