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俺のこと愛してる。
そう思ってくれてるんなら、どうしてちゃんと自分のこと話してくれないのかな?俺、本当は祥平に信用されてない?でも何で?
やっぱ俺が鈍くて、馬鹿だから…。
めげないって思っても、元々イジケ易い性格だからまたグチャグチャ要らんことを考えてしまう。そんな風に考えちゃいけないって、自分でも分かってるんだけど。
よし!
こういう事するのに意味があるかどうか分かんないけど、祥平のラックに突っ込んである英語のCDを頑張って聞くことにした。買ったCDもあるけど、殆どがネットでダウンロードしたと思しきものばかり。買おうと思っても売ってない海賊版のやつを、まだ規制が厳しくない頃にコピーしまくったらしい。
ふん、ふん。
悪くない…つーか、すげー、かっこいい!
自分でもギター弾くからなんだろうけど、圧倒的にその手のライブのコピーが多い。しかもかなり古いライブのコピーもある。これ、テープに録音したやつをデジタルにしてネットにのせたんだ。
もとの生音の迫力が伝わってくる。
ボーカルが無いのって退屈だと思ってたのに、その日、俺はギターのソロが延々続くのに聞き惚れた。
いつかベットの上に起き上がって、次から次へと夢中になって聞く。ステレオの音量を上げて、部屋中に音を響かせた。
(次は何聞こうっかなー?)
ヘンドリックス?
そう言えば、祥平のラブにでっかいポスターが貼ってあったっけ。好きなのかな?ギターに火点けて燃やしたりする変な人じゃなかったっけ?それともギターを叩き割ってた?そういうイメージしかないけど…。
まあ偏見を捨てて、と。
そのCDはヘンドリックスのライブの録音らしくて、彼が意外と可愛い声で喋ってた。
“俺のライブに来てくれて、随分並んで待ってたんだって…ワオ…感激…”
みたいな。
そう言えば亡くなったのってまだ20代だもんな。ってことは、このライブの頃って今の俺より若いわけだし、声が若くて当然か。
話し声が止むと、ギターがポロロンって鳴ってゾクっとくる。
何か違う…
クラプトンもジェフ・ベックもジミー・ペイジもみんな上手い。クラプトンなんか余りの華麗さに感動する。けどこれは、上手いっていうか…
這いずり回るようなギターはテクニックを誇示する前に、直接身体に響く。歌声も全然奇麗じゃない。ただ、ギターのうねるような音に合わせて暗く、強く、語り掛けるように続く。
そのうち物凄いとしか言いようのないアメリカ国歌が始まった。
な、なんじゃこりゃ!
60年代のニュースフィルムが頭に浮かぶ。ベトナム反戦運動の最中、アメリカ国旗が引き摺り降ろされ、引き裂かれ、焼かれる。
それを彼のギターがやっていた。強烈なのは、バラバラにされた音が壊れたまま放っておかれないで、まったく別のメッセージを伴いながらちゃんと演奏されてるってこと。
(こいつは天才だ!こんなの初めて聞いた。)
考えてみれば未だに根強いファンが多いんだから、ヘンドリックスのギターが凄いのは当然のことで、びっくりしてる俺の方がおかしいのかも。
しばらくギターの音に圧倒されてると、突然それまでとは全然違うメロディーが流れ出した。
これって…Over the Rainbow?
ギリギリと頭に食い入って来るような音から急に開放されて、パアアーっと目の前が開ける感じがした。
…美しい…声…
ギターが声を上げて歌っている。
カムバックしたジュディー・ガーランドが、カーネギーホールでこの歌を歌うのをTVで見たことがある。映画の中の可愛い少女はそこには居なくて、希望に満ちた同じ歌なのに、その時は凄く切なくて涙が出た。
“あの小さな青い鳥は飛べるのに…どうして?どうして私は飛べないの?”
届かない空に向かって手を差し伸べる。舞台の上の彼女はもう中年の女性で、それまでに山のような悲しみを経験してきていたはずだった。歌を通して彼女がその傷を分け合う。
それでも飛んでみたい、と。
その歌声が胸を熱くした。
あんな風に歌うなんて、他の誰にも真似できないと思ってた。だけど、こんなにも想いを込めて、この歌を歌える…ギターで…。
途中、悲しそうに暗く重くなった旋律が、また最後に心を鼓舞するように明るく響いた。ギターの演奏を聞いているとは一度も思わなかった。
ただ歌声を聞いていた。
悲しみと憧れと希望の歌を…心から溢れるままに歌っている。
そっと肩に手を置かれて、やっと自分が泣いてたことに気づいた。
「祥平…」
祥平がいつの間にか俺の後ろに座ってた。両手を俺の心臓の上にそっと乗せる。
「敬吾はここも…感じ易いんだな。」
その優しい声に、感情が揺さぶられてた俺は堪らなくなった。
「祥平…俺、俺、お前のこと愛してる。愛してる!大好きだ。頼むから俺の事拒まないで。俺の気持ち、信じて!受け止めて!」
手を掴んで振り返ると、まるでタックルするみたいに祥平に飛びついて泣き喚いた。
愛してる、愛してる、愛してる…ずっと言いたくて…ずっと言えなかった言葉。
また拒まれるのが怖くて、どこかへ行ってしまうんじゃないかって不安で、俺はそのまま祥平をギュウギュウ抱きしめた。
「敬吾…」
俺の頭を撫でる手が優しい。俺が鼻をグズグズ言わせてると、耳元で静かな声が囁くように言った。
「じゃあ俺の事、敬吾に話すよ。聞いてくれる?」
そう言われて、その声と表情の暗さにハッとした。
(アル中だったってこと、話してくれるんだろうか?)
でも…
「祥平が嫌なら無理に話さなくてもいいよ。俺、祥平が話したくなるまで待つから。」
「俺は今、聞いて欲しいんだよ…敬吾に。」
「わ、わかった…」
いつの間にかCDが終わっていた。シンとしてしまった部屋に祥平の掠れた声だけが響く。
「俺ね、レイプされたんだ…子供の時。」
思わず頭を上げて祥平を見た。暗い無表情な瞳には何の感情も無い。
「12歳だったんだよ。相手は中年のおっさんで、自分の家の寝室で捕まって、無理矢理足開かされて…俺は嫌だって言ったのに…」
なに?何を言われてるか良く分からない。
祥平がそんな…
(嫌だ!そんな話聞きたくない!)
咄嗟にギュッと目を瞑ると、
「聞いてくれないの?敬吾…」
感情の篭らないその声が余計に悲しそうで、答える自分の声が震えるのが分かった。
身体も小刻みに震え出す。
「聞く…。祥平が話したいなら…聞くよ、俺。」
本当は聞きたくなかった。耳を塞いで聞かなかったことにしてしまいたかった。
冗談だよね、そんなこと?
祥平がそんなこと…嘘…。
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