夏休み

3

ライン ドット

散々興奮して騒ぐ姉貴を持て余した俺は、取りあえず姉貴を引き摺って階下の部屋に案内した。

 

「ここが姉貴の部屋だから。スーツケースここに置くよ。」

「なんかあんた達のお部屋見た後だとがっかりするわね。」

「こら、間違ってもそんな事祥平の前で言うなよ!」

「分かってますって。泊めて頂いて感謝しております。」

 

ダイニングの奥の階段を降りるとそこが本当の1階。道路から正面玄関へは気づかない位のなだらかな上りのスロープがあって、正面のドアを開けるとリビングに出るけど、そのリビングは実は2階に当たる。

 

ややこしいから、普段はリビングを1階、ベッドルームを2階、階下の空いてる部屋は下の部屋って呼んでる。

 

その下の空き部屋には、普段俺の荷物やトレッドミルが置いてあってかなり雑然としてるけど、姉貴のために少し片づけて小さなゲスト用の布団を入れた。それで一応ゲストルームらしくはなったけど、この部屋からは殆ど景色が見えない。

 

庭に面してスライディングドアの窓があるものの、庭自体はほぼ全体が煉瓦で舗装されていて、端っこにメイプルツリーと、ところどころに芝生があるだけだ。もう少し手入れすれば素敵な庭になるんだろうけど、家の中の掃除は細めにする祥平は、庭の手入れにはそれ程熱心じゃない。

 

「これ、あんたのテレビでしょ?」

「うん。」

 

俺の荷物は片づけたけど、姉貴のために一応TVは繋げておいた。

 

「まだ自分の荷物取ってあるの?」

「う、うん…。あ、あのさ、今のうちにシャワーして少し昼寝でもすれば?」

 

どうして自分の荷物や家具を処分してしまわないのか?

 

姉貴の聞きたい事は分かってるけど、自分でもよく分からない事を話したくなかった。

 

「…じゃあそうさせて貰おうかな。」

 

きっとこっちにいる間にまたこの話を蒸し返されるんだろうけど、今はさすがに疲れてるみたいで、それ以上突っ込まないでくれてホッとした。

 

姉貴を置いて、午後の残りは祥平に言われたものを買いに出かけた。

 

キャンプに行く準備って意外と大変。缶詰とかフラッシュライトの電池とかタープとか言われたものを買い込む。

 

(しかし…これを自分で担いで山登りするって…大丈夫か、俺?)

 

姉貴に期待するのは無理だから、俺と祥平でこれ運ぶんだし…。

 

うーん。

 

スニーカーじゃなくて、ちゃんとしたハイキングブーツじゃないと駄目って言われてたのを思い出したけど、それは明日にでも姉貴をショッピングに連れ出した時ついでに探すことにした。

 

そして夕方、家に戻ってディナーを作ってると祥平が帰ってきた。

 

「ハイ、敬吾。お姉さん来てるの?」

「お帰り。うん。今、下の部屋で寝てる。ディナー出来るまで寝かしとくよ。」

「そうだな。お、美味そうじゃん。」

「そう?」

 

自分の経験上、飛行機を降りた後は余り油っこいものを食べたくない。姉貴のために、よく煮込んだ野菜のスープを作ってあげた。

 

「あーん。」

 

祥平がふざけて口を開けるから、スプーンで味見させてあげた。

 

「ん、美味しい。よく出来ました。」

「へへっ。」

 

そのまま抱き合ってしばらくキスした。

 

(やっぱり荷物は、そろそろ始末しちゃおうかな?もう取っとく必要ないよね?)

 

そうしてると、急に後ろから姉貴のでかい声がした。

 

「あらっ!」

「姉ちゃん!」

 

俺が慌てて祥平から離れると、

 

「ごめんさい。祥平君帰ってらしたのね。あの、私、敬吾の姉で関谷 加奈子って言います。この度は大変お世話になります。」

 

姉貴が、ぴょこんと最敬礼のお辞儀とともに挨拶した。

 

(いつの間に起きたんだよー!)

 

「祥平です。あのー、俺、敬語とかよく分かんないんで、普通に話していいですか?」

「あ、はい、どうぞ。」

「お姉さんも気い遣わないで下さい。俺、そういうの苦手なんで。」

「分かりました。えーっと、あの…これお土産のお香なんですけど…」

「あ、ありがとう。開けていい?」

「どうぞ。」

 

ベリベリっと包装紙を破いて、

 

「へーっ、こういうの初めてかも。」

 

そう言いながら、祥平がクンクン匂いを嗅いだ。

 

「いい香り。どうもありがとう。」

 

そして祥平がにっこり笑い掛けると、姉貴が赤くなった。

 

(気持ちは分かる。あの笑顔、必殺だよな…。)

 

ディナーを食べながら、最初のうちはやたらと澄ましかえって無口だった姉貴だけど、そのうち好奇心に負けて祥平に色々質問しだした。

 

「本当に野菜しか食べないんですね?」

 

「ああ、そう。日本じゃあんまり居ないのかな、ベジタリアンとかビーガンって?」

 

「そうですねえ。そういう人もいるのかもしれないけど、あんまり聞かないかしら。祥平君は、生まれた時から野菜しか食べないんですか?」

 

「まさか…」

 

そう言われて祥平が苦笑した。

 

「うちの親は普通の日本人だし、俺もティーンネージャーの頃までは肉も魚も普通に食べてたよ。」

 

「え、そうなんだ?」

 

考えてみれば当たり前だけど、俺もそれは知らなかった。

 

「じゃあいつからベジタリアンになったの?」

 

「ああ…大学院に入って直ぐだから…19ぐらいの時かな?」

 

「そうなの?結構最近の話じゃん?一体どうして…」

 

聞きかけた俺を、祥平がスッと目を細めて見た。

 

(あれ、なんか余計な事聞いちゃった?)

 

「健康上の理由よね、きっと。だってお酒も飲まないんでしょ?若いのにえらいわよねー。」

 

(そうなんだろうか?俺もずっとそう思ってたけど…。)

 

そういう姉貴は冷蔵庫で冷やしてあった白ワインを飲んで、だんだん御機嫌になりつつある。

 

「そうだ!祥平君って血液型なに?敬吾と相性どうなの?」

 

「ああ、俺はOネガティブだから、ユニバーサルドナー(*)なんだよね。もし、敬吾になんかあっても大丈夫!俺が輸血できるし。」

 

「はあ…。」

 

多分姉貴が聞きたかったのは血液型占いの相性であって、祥平が俺に輸血できるかどうかっていう話じゃないと思うけど…。

 

祥平ってば日本語は喋るけど中身は日本人とも違うし、かといって普通のアメリカ人ともかなり違うかも。

 

どっちにしても血液型占いって知らないよな?

 

ちなみに俺も最近はそれ程じゃないけど、昔は結構気にしてた血液型。アキは祥平と同じO型。恭介さんには聞いたことないけど、やっぱりO型っぽいかな?

 

話が微妙に噛み合わないながらも、アルコールの入った姉貴と素面だけど機嫌のいい祥平は仲良く盛り上がり、俺もホッとした。

 

それにしても…

 

姉貴が寝て祥平と二人になってから、さっきから気になってたことを聞いてみた。

ライン ドット

*O型の人、特にOネガティブはユニバーサルドナーって呼ばれて、緊急の場合には、どの血液型の相手にでも輸血可能とされています。ちなみに、輸血バンクの調査によれば、アメリカ人のほぼ半数がO型。残りの半数がA型で、それ以外の血液型の人は輸血を受けるのが難しそうです…。

 

Prev/Next

UTSに戻る  長編小説に戻る  ホームに戻る

Copyright (c) 2007 Hotaru Natsuno all rights reserved.