夏休み

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ライン ドット

家に戻ると、また姉貴から電話があった。

 

「けーちん、元気?」

 

「ああ、姉ちゃん…。俺は、まあ元気だけど。そっちは?」

 

「こっちは相変わらずよ。それより“まあ”って何よ?何かあったの?」

 

「ううん、別に…。新しい仕事に慣れなくて、ちょっと疲れてるだけ。」

 

本当はそれだけじゃないけど…

 

「そういえばメールでもそんなこと言ってたわね。でも、残業させられたりしてるわけじゃないんでしょ?まだ1ヶ月もたってないんだし、すぐ慣れるわよ。それよりさ、あんた、お土産なにか考えといてくれた?」

 

「あ…ああ…」

 

「もうー!なんにも考えてないでしょ。手ぶらで行く訳にはいかないんだからね。そっちに何でもあるのは分かってるけど、なにか欲しいもの考えといてよ。祥平君にもちゃんと聞いといて。分かった?」

 

「分かった。」

 

「じゃあ今日か明日にはメール入れといてね。」

 

(お土産ねえ。)

 

これが結構困ることの一つであったりはする。

 

日本に帰る時、なに持ってったらいいのか分からない。なんでもあるじゃん日本に。

 

逆も真なり。

 

お土産何が良い?って聞かれても困る。この辺は特にそうだけど、手に入らないもの殆ど無いし。

 

祥平に聞けっていうけど、あいつ日本語は話すけど、家の中で靴も脱がない位で、すっかり中身はアメリカ人だし。日本から持ってきて欲しいものっていっても…

 

何もないよなー?

 

その夜、日本から何か持ってきて貰いたいお土産はあるかどうか、一応祥平に聞いてみた。そしたら、あっさり即答される。

 

「コンドーム。」

 

「は?」

 

「だから、コンドーム。日本のやつって、薄くて丈夫でモノが良いんだって。」

 

グラッときた。そんなもん姉貴に頼めるかーっ!

 

「駄目!それ以外のもの考えて。」

 

「なんでだよ。軽いし、そんな高価なもんじゃないし、完璧じゃん。」

 

「駄目だよ。そんなん姉貴に頼めないだろ?もっと普通のものを…」

 

「ああ、じゃあ俺が直接頼もうか?」

 

「!」

 

目を白黒させてる俺を見て祥平が笑った。

 

「分かったよ。じゃあお香。」

 

「おこう…って、お線香のこと?」

 

「えーっと…そうかな?でもほら仏壇で使うやつだけじゃなくて、色々あるじゃん、香

りとか香木によって。」

 

「そうなの?」

 

線香っていうと、緑色の抹香臭いやつしか思い浮かばないけど…。

 

「よくそんなこと知ってるね?」

 

「ああ…知り合いが前使ってたから。」

 

「ふーん…」

 

このニヤニヤ笑いは、そういう「知り合い」ってことだよな。

 

いいんだけどさ…なんか…。

 

やっぱりあのI love youは、あの最中にポロっと言っちゃったっていうだけで、深い意味は無かったのかな?

 

改めて言ってくれるわけじゃないし。

 

姉貴に「お線香」って言うとびっくりしてたけど、探してみるって言ってくれた。あんまり変な香りがついてなくて、香木そのものの香りがするものが良いそうだけど…

 

そんなお香焚いて「知り合い」と何をしてたんだか。

 

学校はとっくに夏休みだけど、祥平は逆にラブでフルタイムで働き出して、ますます忙しくなった。それなのに姉貴が来るのに合わせて、3日程休みを取って一緒にヨセミテに行ってくれるっていう。

 

「いいよ、そんなの。俺がまたカーメルでも連れてくし。」

 

「だってお姉さん、こっちに何回も来てるのに、まだヨセミテ連れて行ってあげたことないんだろ?」

 

「そもそも山登りとか無理だよ。普段運動してないんだから。」

 

「そういう敬吾だって、ヨセミテに行ったことないんだろ?」

 

「う、うん。そうだけど…」

 

「じゃあ一緒に行こう。」

 

そう思いつきで言われて宿を捜したけど、ギリギリに電話しても宿泊施設は全て予約済み。そしたら…

 

「なに言ってんの?キャンプに決まってるじゃん。」

 

「ええー!キャンプって、ひょっとしてテント張ってする、あのキャンプ?」

 

「それ以外のキャンプってあるの?」

 

いや、しかしそれは…。

 

姉貴はヨーロッパに本社があるとかいう外資系の製薬会社で秘書をしてる。前は日本企業にいたんだけど、30過ぎたところで居辛くなって辞めて、今の会社に転職した。

 

トラバーユってやつ?

 

一応外語大を出てるから英語は出来るし、転職して給料も上がったらしい。奇麗にお化粧して、高いスーツを着こなし、この値段を靴に払うか?っていうくらいお高いヒールを履いて、澄ました顔で仕事に通ってる。

 

こっちに遊びに来ても靴を買うか、服を買うか、時計、ジュエリー、スカーフ、ベルト、化粧品、バッグ、その他ありとあらゆるものを買いこんで帰る。

 

その挙げ句、

 

「けーちんがニューヨークに居てくれたら、もっといいんだけどなー。サンフランシスコってイマイチなのよねー、置いてあるものが。」

 

とかケチをつける。

 

(どう考えても、キャンプっていうタマじゃないぞ。)

 

しかし姉貴に話してみると、意外な反応が返ってきた。

 

「えー、楽しそうじゃない!行く行く!けーちん、いっつも同じとこばっかりしか連れてってくれないんだもん。楽しみー。」

 

「ちゃんと聞いてる?キャンプだよ、キャンプ。テント張って寝袋で寝るんだよ。分かってる?シャワーもお風呂も無いし、昼間は山歩きするんだよ。日焼けするよ。」

 

「大丈夫よー。日焼け止めばっちり塗れば。じゃあそのための服と、後は…スニーカーとか持ってけばいいよね?」

 

「途中、クリークとかあって泳げるみたいだけど…」

 

「分かったわ!水着も持ってく!祥平君ってほんといい子ねー。けーちん、全然面白いこと考えてくれないんだもん。やっぱり若い子はいいわねー。」

 

姉貴があんまりはしゃぐから、俺までちょっと楽しみになってきてしまった。

 

キャンプねー。いつ以来だ?中学校か?高校?学校で強制的に参加させられたのが最後で、自分で行ったことがないのは確かだ。

 

そもそもキャンプに必要な物とか、俺は何も持ってない。

 

祥平に聞いてみると、意外とキャンプには慣れてるらしい。

 

「テント持ってるの?」

「ああ、3人位なら大丈夫だから。」

「寝袋は?」

2つあるから、もう一個は誰かに借りるよ。」

ライン ドット

 

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