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「感じ変わったな…敬吾…」
「え?」
「なんかこう、雰囲気が変わった。」
アキが少し目を細めて俺を見た。
「そうだよ。俺…俺、アキと別れてから色々考えて…それで、自分のことも…自分がどうしたいかってこととか、考えるようになったんだ。」
言いたいことが上手く言えない。
「ごめんな…敬吾。俺は敬吾から逃げたんだよ。ああやって逃げてしまえば、敬吾のこと忘れられると思ったけど…出来なかった。俺は今でも敬吾のこと…」
「駄目だよ、アキ!」
怒鳴ったりするつもりじゃなかったけど、つい声が大きくなった。
「アキ、アキには、俺より大事なものが一杯あるじゃん。アキが決めた事だよ。会社で出世して、そのために奥さんも貰って。俺、知ってるんだよ。カーラに聞いた。アキの奥さんて、本社の偉い人の親戚のお嬢さんなんでしょ。可愛い人じゃない。」
そう…会社のクリスマスパーティで遠くから見た事がある。ちょっと舌足らずなゆっくりした話し方のすごく可愛らしい子供みたいな人だった。
「敬吾…」
「俺は、アキに幸せでいて貰いたいんだよ。アキには自分の欲しいもの手に入れて、可愛い奥さんと子供と絵に描いたみたいな素敵な家族を持って、うんと幸せになって欲しいんだ。そしたら…そしたら、俺も…それで…いいって…」
(どうして俺はすぐ泣くんだ?)
自分で喋って、自分で泣いてりゃ世話ないってのに…
泣き止もうとして唇を噛んだ俺を、アキが手を伸ばして引き寄せた。すっぽりアキの腕の中に抱きかかえられる。懐かしいアキの匂い…背中を撫でる優しい手。
俺は少しだけそのままじっとしていた。
…for old times’ sake…
そして腕を突っ張るとアキから離れた。
「もう平気だから。」
「敬吾、俺は…」
「奥さんに優しくしてあげなよ。アキって冷たいとこあるからさ、女の人は不安になるんじゃない?アキが優しくしてあげたら、きっと上手くいくよ。」
俺がそう言うと、アキは俺に伸ばしかけた手を止めて溜め息を吐いた。
「本当に変わったな。」
「うん、あいつの…祥平のおかげ。」
「彼が好きなんだ。奇麗で…若いのにこんな家に住んでるし…」
そう言われて、また声がでかくなってしまった。
「そうじゃないよ。俺があいつを好きなのはそういうんじゃない。祥平は…あいつは、アキみたいに常識のある大人じゃないけど、でも、あいつなりに俺のこと大事に思ってくれてて…。俺、あいつといると色々考えさせられるっていうか…今まで思ってもみなかったこととか、当たり前だって思ってたこともそうじゃないって思ったり、上手く言えないけど…」
「…そうか…」
アキが手を伸ばすと俺の前髪をそっとかき上げた。
「俺、アキには色々感謝してる。こっちに来て色んな事教えてもらったし。コンド買う時も、全部アキにしてもらって。あの時貸して貰ったお金もちゃんと返すよ。一度には無理だけど、これからは少しずつ返すようにする。」
「いいよ。あれは敬吾にあげたんだから。」
「駄目だよ!何言ってんの。そんなの駄目。俺、アキには…その借りは作りたくないっていうか…」
そう言ったら、また溜め息を吐かれた。
「嫌いな奴に借りを作りたくない?」
「違うったら!もうアキのこと嫌いでも憎んでもないよ。俺、今は無理でも…いつか、いつかアキとまた会いたい。その…友達としてっていうか、やっぱりアキが俺のこと一番良く知ってるし、そうなれたらって…。そしたら、お金の貸し借りがあるのってやっぱり嫌だから。」
俺がそう言い終えると、アキがポツンと言った。
「…友達…か…」
「うん。古い友達。」
「そうだな…長い付き合いだもんな。」
「そうだよ。今時結婚してたって10年もたないんだから。」
そう言ってから、アキと顔を見合わせて笑った。アキの笑顔を見るのは久し振りだ。
(あの写真どうしたっけ?)
ふと、忘れていたことに気づいた。祥平が俺から取り上げた、アキと俺が一緒に幸せそうに笑ってるあの写真…。
長い時間と距離が一気に縮まってあの頃の気持ちを思い出す。
さようなら、あの頃の俺…。
さようなら、アキ。
「じゃあ、それまでお別れだな。」
「うん。」
アキが俺の目を見詰めた。俺もアキの目を見る。
「さよなら。元気でね。」
「ああ。敬吾も、元気で。」
(ちゃんと言えたよ。きちんとサヨナラできた。)
俺が心の中で話し掛けたのが聞こえたみたいに、祥平が階段を降りてきた。
「帰るの?」
そう祥平が声を掛けると、ドアの方に歩きかけてたアキが振り返って言った。
「敬吾を宜しく。もし君が敬吾を泣かせたら…」
そのアキに最後まで言わせずに、祥平が叩きつけるみたいに言い返した。
「あんたにそういうこと言う権利ないよ!あんたが…YOU BROKE HIS HEART!」
アキが一瞬顔を歪めると俺を見て、そのまま黙ってドアを開けると出て行った。
締められたドアを見ていた祥平が、しばらくすると俺の肩に顔を埋めて呟いた。
「ごめん、俺、余計なこと…。黙ってるつもりだったけど…腹立って…つい…」
「ううん。祥平は悪くないよ。ごめん、嫌な思いさせて。」
そう…アキは俺の心をぶっ壊してしまった。単純でアキの言う事なら何でも信じてた俺は、もう素直に誰かを信じられなくなった。
祥平は、自分勝手でワガママで、ガキみたいで、強引で…。だけど嘘吐きじゃない。きついことばっかり言うけど、それだって本当のことだ。
その夜はベッドでゆっくり抱き合った。
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