転職

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ライン ドット

祥平はああ言ってくれたけど決心がつかないまま、俺の方からアキに連絡できないでいた。アキの携帯の番号は消してしまっていたし、前と同じ携帯を持ってるとも思えない。

 

電話があってから3日が過ぎて、アキはもう日本に帰ってしまったかもしれないって思い出した頃、仕事から帰って夕飯の支度をしてると携帯が鳴った。着信を見ると、

 

(知らない番号…アキ?)

 

スッと息を吸い込んで、身構えてから携帯に出た。

 

「ハロー?」

「ケーゴ、久し振り!僕、ジュンだよ!全然連絡くれないんだもん、どうしてたの?」

「えー、ジュン!?」

「もう!映画に出てくれる約束忘れてたの?」

 

忘れてたっていうか…ポルノじゃん!

 

「あの、俺、悪いけどアダルトフィルムとかって出る気ないし…」

「ええ?何言ってるの?アダルト?違うよー、なんでー?」

「え、違うの?」

「あ、ショーンでしょ、余計な事言ったの!ひっどいなー。僕がケーゴにそんなこと頼む訳ないじゃん。だからショーンにいちいち相談しちゃ駄目って言ったのにー。」

 

張り切って話し出したジュン君によれば、祥平が言ってた変態ポルノ映画の監督っていうのは、一応自分のスタジオを持って独立してて、ジュン君が言ってたフィルムスクールの生徒っていう子とは別人らしい。

 

「その子はもっとずっとソフトな感じのフィルムにしたいって言ってたから、生で入れたりしないし、怖がらなくても全然平気だよ。」

 

ソフトって…生でって…

 

やっぱりポルノじゃん!

 

「あのー、俺、そういうの興味ないから…」

「えー、どうしてー?アジア系の可愛い男の子撮りたいらしいんだよねー。ケーゴぴったりだと思うんだけど。」

「いや、俺より…それなら…しょ、ショーンに聞いてみれば…」

「駄目だってば、ショーンみたいなスレっからし。もっと初々しい感じじゃないと。」

 

だから、その「初々しい」って、絶対馬鹿にされてる気がするんだって!

 

「とにかく、俺、ほんとに興味ないから。ごめん。」

「じゃあさ、今度、メールするから一度見てみてよ。ショーンのアドレスに送ればいいんでしょ。送ったらまた電話するね。じゃあ!」

「ちょっと、ジュン!」

 

言いたい事だけ言って切るし…。

 

アキからの電話かと思って緊張してたのに…しょーもなっ、気が抜けちゃった。

 

首を振り振りキッチンに戻りかけたら、今度はドアベルが鳴った。

 

「はいはい。」

 

祥平の友達は余り家には訪ねて来ない。俺と住みだしてからはディナーの時間には帰って来てくれるけど、そうでなければ以前は実験室に篭って、殆ど家に居なかったみたいだ。俺と喧嘩してた時も家に戻らなかった。

 

ドッグウォーカーのおばさんが戻って来たか、それとも近所の人かと思って何気なくドアを開けたら、

 

「アキ…」

 

立っていたのは1年前とちっとも変わらないアキだった。相変わらずスーツが良く似合って…。

 

そのアキが俺を少し眩しそうに見た。俺はきっとポカンとしてはずだ。

 

「敬吾…久し振りだね。」

「どうして…」

「いきなり来てごめん。電話だとまた切られると思って。コンドにいないから、野島君に住所聞いたんだ。今、話せないかな?」

 

恭介さんに?

 

「敬吾?」

 

本当にちっとも変わってない。強引で自分勝手…そういう所もとっても好きだった。

 

「じゃあ…」

 

俺は少し躊躇ってから言った。

 

「もう少ししたら来てくれない?そしたら俺の…俺の恋人紹介するから。彼、いつも7時位には帰るから、その頃もう一度来て。」

「恋人?」

 

恭介さん、アキに祥平のこと言わなかったんだ。恭介さんはアキと俺のこと知ってるけど、アキはそのこと知らないんだろうか?

 

「そうだよ、俺、今好きな人いるんだ。その人と住んでるんだよ。ここ、その人の家なんだ。」

「…そうか…」

 

アキのがっかりしたような顔を見たくなかった。ちっとも嬉しいと思わない。

 

「その人が帰るまでは、家に入れてあげられないんだ。」

「分かった…。じゃあ、7時過ぎにまた来るよ。」

「うん。」

 

アキがまだ何か言いたそうに見えたけど、そのままドアを閉めた。もしアキがこのまま戻って来なくてもそれはそれでしょうがない。祥平はああ言ってくれたけど、祥平が戻ってないのにアキを家に入れるのは嫌だった。

 

会って、顔を見て確信した。

 

俺にとってアキはもう過去。今は…俺には祥平の方が大切。

 

急遽3人分の夕飯を準備した。祥平がなんて言うか分からないけど、アキをディナーに招待したみたいになってしまった。

 

「ただいま!」

「…おかえり。」

「ああ、いい匂い。腹減ったなー。」

 

キッチンに来るなり腰を抱いてキスされる。

 

「あれ?またえらく沢山作ったんだな?」

 

俺の腰に手を回したまま鍋を覗き込んで、祥平が不思議そうに言った。

 

「うん。あの…実は…」

「ん?」

 

(せっかく機嫌が良さそうなのに…。)

 

俺は腰に回された手にそっと触れながら言った。

 

「さっき…アキが来たんだ。」

 

祥平の顔からスッと笑顔が消えるのを見た俺は、慌てて続けた。

 

「家には入れないで直ぐ帰ってもらったよ。でも、祥平のこと紹介したいから7時過ぎにまた来てって言っちゃったんだ。祥平が嫌なら帰ってもらう。もう俺、アキのことなんてどうでもいいんだ。だから…」

 

「いいよ…ちゃんと話せって言ったの俺だし…。なんなら俺、今から出かけるから…」

「駄目!」

 

祥平が、放そうとした手を俺は掴まえて握り締めた。

 

「お願いだから、ここにいて。ちゃんとサヨナラ言えって言ってくれたの祥平じゃん。俺、アキに祥平のこと紹介して、俺の好きな人ですって伝えて、それできちんと別れる。そうしたいんだ。」

 

「…敬吾が…それでいいなら…」

 

「うん。…ありがとう…」

 

手を握ったまま頬にキスをしたけど、祥平は俺と目を合わせないでカウチに座ってしまった。

 

やっぱり嫌なのかな?家に入れないで外で会った方が良かったのかも…

ライン ドット

 

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