パレード

3

ライン ドット

「で、あの映画がなに?」

「…もういい…。」

 

食べながら聞かれた頃には拗ねてた俺だけど、軽くあしらわれた。

 

「どうせ俺にしか話せないことなんだろ。サッサと言えよ。お前が言うまで止めないって分かってるだろ。」

 

そう、俺が何か言いかけて止めると、「気になる、気持ち悪い。」って言って、俺が話すまで俺が何を言うつもりだったのか、しつっこく聞き続ける。

 

「だからさ、祥平あの映画見たの?」

「あー見たよ。随分前だけど…ちょっと待てよ。DVD があったって…お前、ひょっとして俺の箱の中身見たの?」

 

ヤッバ!

 

「あ、あの…その…」

「へー。俺がいない間に隠れて人の物漁ってたんだ。」

「ごめん…。」

 

怒ってるかと思ったけどニヤニヤしてた。

 

「何か気に入ったものあった?」

 

気に入ったものって?

 

「あ!ない、全然ない!」

「ふーん。」

「そういえば…捨てるって言ったのに、なんで取ってあるんだよ。」

「なにが?」

「なにって、だから…」

「ああ、あれ?敬吾のお気に入りのやつ。」

「ち、違う!気に入ってなんか…」

 

急に真面目な顔で聞かれた。

 

「他には何か気になるものあった?」

「気になる?ううん。ただあの箱なんだろうって前から気になってて…ごめん。聞けばよかったね。」

「いいさ。別に隠してた訳じゃないし。ていうか忘れてた。けど、勝手にクローゼットの中漁るのはもう止めろよ。」

 

そんな怖い顔しなくても…他に何があるっていうんだろう?

 

「分かった。ごめん。」

「で、映画がなんなの?」

 

あー、もう本当にどうでもいい…でも言わないとしつこいからなー。

 

「あの映画流行ったじゃん、だから結構期待して見たんだけど、なんかがっかりしたっていうか…。あれだけ一般受けしたのって、主役の二人がコソコソ隠れて小さくなって生きてたからかなって思って。ちっとも前向きじゃないじゃん、話が。」

 

祥平とハーベイ・ミルクのドキュメンタリーを見た事がある。ハーベイ・ミルクはゲイとして、堂々とサンフランシスコで市政に参加した初めての人物だ。マスコーニ市長と同時に、78年に保守派の同じ市の議員に暗殺されてしまった。

 

ドキュメンタリーは、ミルクの暗殺者が陪審裁判の結果として、食べた物が悪かったせいで一時的に錯乱してただけ、っていう信じられない理由で保釈付きで釈放されてしまった後、84年に作られている。

 

ラストシーン、カストロをキャンドルを掲げた人、人、人の群れが彼の死を悼んで練り歩く。

 

見ていて涙が止まらなくなった。

 

勇気ある人々の物語。これぞ、アメリカって思う。自由のために。真っ直ぐに生きる権利のために、闘い続ける人々の物語。そしてその勇気と信念が周りを変えてゆく。

 

それに比べて…って比べる俺がおかしいのかもしれないけど…

 

ブロークバックって主に70年代から80年代にかけての話。二人の主人公は同情すべきキャラクターかもしれないけど、感動はしないよなー。同時代に文字どおり命懸けで闘ってる人がいたっていうのに。

 

けど、この映画はアメリカ中でゲイ・フィルムとしては異例のヒットになって、アカデミー賞にもノミネートされた。これってちょっと危なくない?

 

政治にあんまり興味は無いけど、Shock and Aweって言って強引に始めたイラク戦争や内政の失敗で支持率が低下してたブッシュが、04年に僅差で民主党候補に勝ったのは、民主党のゲイの結婚へのサポートが有権者の感情を逆なでしたからだって言われてる。

 

サンフランシスコで発行された結婚許可証も、結果的に共和党のシュワ知事と裁判所に無効っていう判決を下された。去年の選挙では民主党が大勝利を収めたものの、各州でゲイの結婚は禁止っていう法案が通ってる。

 

こういう時期にどういう内容であれ、ゲイを主人公にした映画がメジャーなマーケットで売り物になるっていうのはいいことなんだろうか?考えてしまった訳。

 

「どう思う?」

 

考えながらつっかえつっかえ話す俺に、祥平は珍しく口を挟まずに聞いてくれた。

 

「えらいじゃん、敬吾。」

「は?」

「そういう風に色々自分で考えるのっていいんじゃない…so proud of you!」

 

んな、大袈裟な…。俺のことホントに馬鹿だと思ってるな。

 

「よし、じゃあ週末のプライド・パレード参加するか?」

 

そ、それは…

 

「えーっとお、見に行く…」

 

鼻で笑われてしまった。

 

どうせ俺は口だけです。だから余計ああいうグズグズ煮え切らない奴が主人公の映画見ると苛々するんだけど…。

 

俺が参加しないなら自分もしないっていう祥平に連れられて、結局沿道に並んでパレードを見学した。周りに知ってる人が居ないってことと、TVカメラが無いってことを素早くチェックしてしまう。

 

祥平は平気で俺と手を繋いでる。6月最後の日曜日。相変わらずの快晴。パレードには持ってこいの日よりだ。俺達が着く頃には、先頭のダイクス・オン・バイクスがスタートしてた。

 

女性ライダーだけの何百台ものバイクが行進していくのは、確かに迫力。祥平がこれやってみたいっていうのも分かるかも。中には祥平に向けて手を振る女性ライダーもいる。祥平が左手の人差し指と中指を唇に当てて、投げキスを送ると、向こうもキスを2度投げ返してきた。

 

みんな嬉しそうだ。

 

その後は色んな人達が行進していく。

 

アジア系でゲイです。

黒人でゲイです。

ヒスパニックでゲイです。

ジューイッシュでゲイです。

カトリックでゲイです。

ゲイの子供を誇りに思う両親です。

ゲイの学生です。

 

人種も年齢も宗教も職業も様々な人達が、自分はゲイだけどそれ以前に皆と同じ一人の人間ですってアピールしながら歩いていく。

 

いつか夢中で拍手しながら思った。

 

次の職場では嘘をつくのは止めよう。少し怖いけど…だけど…俺ももっと正直になろう。そうじゃなきゃ何も変わっていかない。

 

俺の横には祥平がいる。時々歩いてる人に手を振ったり、キスを投げたりしながら、俺の手を離さない。祥平と一緒なら、俺も変われる。こいつと一緒ならきっと大丈夫。上を向いていられる。

 

この明るい太陽の下。

 

「ハーイ、ショーン!」

 

行進中の人達の中から白人の男の子が抜け出ると、祥平に向かって駆けてきた。

 

「なんでこんなとこに立ってるの?一緒に歩こうよ!」

「悪い。今年は駄目。」

「なんで?どうしちゃったのさ?」

「祥平、俺のことなら気にしないで。ここで待ってるから…」

「駄目。」

 

俺を顎で指して

 

「こいつカムアウトしてないから…」

「ふーん。」

 

チラッと見られて真っ赤になった。でも、やっぱりパレードに参加して歩く度胸はまだ無い。ごめんなさい。

 

「じゃあ俺行くね。後でフードコートの方で会おう。待ってるから。」

OK。」

 

彼が駆け足でパレードの列に戻った後、

 

「ごめんね。俺、今度の職場ではちゃんと言うから。」

「ん?言うって…自分がゲイだって?」

「うん。もう隠さないよ。家族にはまだ無理だけど…それもいつかちゃんと話すから。」

 

祥平がちょっと複雑な顔で俺を見た。

ライン ドット

 

Prev/Next

UTSに戻る  長編小説に戻る  ホームに戻る

Copyright (c) 2007 Hotaru Natsuno all rights reserved.