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そして俺はいよいよ本格的に仕事を探し始めた。
プロジェクトのパートナーのEワークスから来ないかって誘われたけど、それは丁重にお断りした。プロジェクトの提携を有利に進めるために、俺の持ってる今の会社の情報が欲しいんだろうけど、そういう真似はしたくない。
そんな理由で雇われても、用済みになったらロクなことにならないだろうし。
それにしても生まれて初めてレジメってものを書くんで、祥平に手伝って貰って随分苦労した。
いつも思うけど、なんでこいつは一々文句言わないと教えられないんだろう?
「お前さあprepositionの使い方、全然分かってないぞ。」
「敬吾、文章はちゃんと現在形か過去形で統一しろ。」
「敬吾っ、ここはコンマじゃなくてセミコロン。何回も言ってるだろ?」
「けーごっ、文章がだらだら長いっ。ずらずらandで繋げないで、ちゃんとセンテンス区切れ。」
「ケーゴッ!!これ意味がまったく分かんない!なに?そう言いたいなら、なんでこう書く?」
だあああーっ!だから、俺が英語できたらお前に聞かないっつーの!
名前と電話番号とメルアドを左上に入れて、今の会社での仕事内容を簡単に書き、その下に俺が知ってるありとあらゆるコンピューターシステムを並べ、最後に学歴をつけて終わり。
レターサイズの紙1枚の半分にも満たない、その仕事内容が問題。一回でもやったことがあれば、経験ありますって書けって言われて、ネットで募集してるポジションに合わせて、ちょっとづつ仕事内容を変えてレジメを送る。
その度に祥平に見てもらうんだけど、絶対黙って直してくれない。これが違う、あれが違う、また同じ間違いしてる、いい加減自分で見直して気づけって、うるさいのなんのって。
ま、おかげで勉強にはなったけど。
俺、別に仕事に支障無ければ、今更英語上手くなろうとも思わないんだけどな、とか言ってたらまた怒られた。
お前のせいで俺の英語までおかしくなる、とまで言われてしまったし。
そうやってやっと書き上げたレジメは、最初は自分がやってみたいと思った仕事、それも市内の仕事だけ選んで送ってたけど、ちっとも面接に来て下さいっていう連絡が無いから、さすがに焦って余り選り好みしないで、最終的には20以上のポジションにレジメを送った。
祥平もCVを書くのに忙しい。
「しーびー?」
「カリキュラム・ヴィーテ。」
来年はいよいよ博士課程を終了して、ポストドクトラル、通称ポスドクとして働くため、アカデミック用のレジメが必要で、それがCV。俺が読んでもよくわからないけど、いままでの研究成果とか、発表した論文、どういう教授と何やったとか書いてある。紙1枚の俺のレジメとは当然比べものにならない。
それにしても…。
「どこ受けるの?」
普通の会社ならここらに一杯あるけど、祥平が行きたいようなリサーチ・ユニバーシティっていうのは、この近くだとUCSFとスタンフォードくらいで、あとは南カリフォルニアのUCSDか州外に出るしかない。
「ま、こことスタンフォードだろうな。」
「それだけ?」
「それ以外だと敬吾が困るだろ?」
「けど、俺はどこでも仕事探せるから…。祥平の方が仕事見つけるの大変だろ?俺、祥平がどこ行っても近くで仕事探すよ。」
そしたら、
「田舎行くのやだ。」って。
じゃあ俺のためって言うなよな…。
「それにしてもお前、今時日本の女だって、あなたにどこまでもついて行きますなんて言わないんじゃない?ま、お前の場合、元々それでアメリカまで来たんだもんなー、考えられん。」
それは姉貴にも散々言われて馬鹿にされた。挙げ句振られてるから余計に…。
確かに俺もいい加減凝りるべき、だよな。
祥平の場合は1年以上前から準備しないといけないけど、俺は仕事が見つかり次第1ヶ月以内で新しい職場に移ることになる。祥平の仕事が決まるまで待たないことにして、取りあえず色々レジメを送ったわけだ。
しっかし相変わらず自信満々だけど、もしどっちも落ちたらどうするつもりなんだろう?
ところが…
俺の就職が決まる前に、祥平の就職が決まってしまった。行き先はスタンフォード。以前UCSFに居た教授が、1年くらい前にスタンフォードに移っていて、祥平は取りあえず彼の研究室で働くことになるらしい。
なるほど、相当狭い世界。この人があの人を知っていて、その人がまた別の人を知っている。
その祥平に正式なオファーレターが来たのを見て、びっくり仰天してしまった。なに、この給料…安っ!ありえない。
「しょーがねーんだよ。1年目なんてこんなもん。ま、何年経ってもたいして変わんないけどな。」
聞けば聞くほど地道で暗い仕事…。教授にでもなって研究成果を大々的に発表し、それこそノーベル賞でも取れば騒がれるけど、そうでなければかなり報われない仕事だ。好きでないとやってられないだろう。
「そう言うけど、俺が普通のオフィスとかで働けると思う?」
「…無理…」
「だろ?」
それからしばらくして俺もいくつか面接を受けた。最初から採用する気のない所もあって、そういう時はなんで面接に呼んだんだっていうくらい、失礼な気の無い対応をされる。最終的に一番感じの良かった相手から電話があって、2度目のインタビューに来て下さいって言われた。
2度目は社長と会うって言われて、思わずスーツ持ってませんって言ったら、人事担当者に笑われた。
「あなたの今居る会社と違って、うちは小さい会社ですから。どのポジションのアプリカントも社長が最後に自分でインタビューしてから採用を決めるんですよ。」
「そうなんですか…。」
特に服装に気をつける必要は無いって言われて、会社に行くようなジーンズに、シャツだけは一応祥平のを借りて行った。
そのシャツはこの間の誕生日に貰いたてのホヤホヤ。
プレゼントは突っ返すとか言いながら、ちゃっかり全部包みを開けて中身を確認すると、気に入った物は別けて取っておいた。しかも次の日、甘えた声でお礼の電話までしてるし。
この性格…今更驚かないけど…。
社長っていう人に会ったら俺と同い年くらいでショックだった。けど、アキだって俺より若くてあの会社起こしたようなもんだから、仕事出来る人は年に関係なく会社作ったりしちゃうんだよなー。
ポチャっとした丸顔の温和な感じの社長さんは、それまでに会った人達と同じように感じがよくて、会社の歴史、っていっても3年位だけど、を話してくれた。最初はパートナーがいたらしいけど、その人は途中で別の会社で雇われる方を選んで、今は彼が一人で頑張ってるらしい。やっぱり自分の会社を軌道に乗せるのって大変で、人に雇われてた方が楽は楽なんだろう。
結局、その話がトントン拍子に進んで、後はリファレンス(*)を教えて下さいって言われて、恭介さんとリッチの電話番号を教えた。二人にはあらかじめ連絡が行くと思いますので、宜しくお願いしますって頼んでおいた。
・・・・・・・・・・・・
「祥平!俺も仕事決まったよ!」
「そっか、良かったな。こないだインタビューに行ったとこだろ?通勤楽になるな。もうハイウェイ乗らなくていいだろ?」
「うん!」
小さな会社でベネフィット、福利厚生は余り無いって言われたけど、それでも一応健康保険とか最低限のものはつく。何よりありがたいのは給料。
会社の同僚に、絶対日系企業の給料は安いからって、給料の希望を聞かれた時に今貰ってる給料を言わずに「この仕事に興味があるから、お給料は最初は頂けるだけでいいです。」って言えってアドバイスされた。それでその通り言ってみたら、なんと今の給料の2倍近いオファーが来た。
桁が一個違うもんなー。
「この辺のエンジニアの給料ってそんなもんじゃない?」
って祥平は言うけど、こんな貰っていいんだろうか?大体使い道無いし。
「今度、ショッピング行こう。服買ってあげる。」
「急に気が大きくなったな。いいよ、別に。」
「けどさ、俺と一緒に住んでるとそのうちプレゼントとか貰えなくなるよ。」
「なんで?」
なんでって…。
下心の篭ったプレゼントだもん、見込みの無い相手にせっせと送らないよな?いや…ひょっとして俺が相手なら充分見込みがあると思われていたりして?
フンッ、これからは俺だって祥平のこと甘やかしてやれるもんね。
就職が決まったって恭介さんに報告すると、
「おめでとう。僕としては残念ですけど、敬吾君にとってはいいチャンスですよね。頑張って。応援してます。嫌になったらいつでも戻ってらっしゃい。」
って言ってくれた。彼が余りにも大人でつくづく感動してしまい、
「そう言ってくれたんだよー。本当にいい人だよね、恭介さんって。」
って思わず祥平に言ってしまったのが間違いだった。
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*リファレンスっていうのは、就職の際に、あなたのことを新しい職場に推薦してくれる人のことを言います。普通は元上司がリファレンス。恭介さんみたいに、今の上司がリファレンスになってくれるのは稀だと思われます。日本だと推薦状を書いて貰うような気がしますけど、アメリカだと人事担当者が直接電話でリファレンスをチェックします。(ミニ解説、付けてみましたけど、うっとおしいでしょうか;;)