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けど俺ってば、肝心のこと忘れてた。その夜、ベットの中で祥平がボソッと、
「敬吾…俺の誕生日忘れてるだろ?」
「!」
ひぇっ!そう、すっかり忘れてた!
6月6日。神も仏も信じない男に相応しい誕生日…。
「ご、ごめん。色々あったから…。えーっと、あ、もうすぐだよね。6日は水曜日だから…どうしようっか?土曜日にディナーとか行く?どっか行きたい所ある?」
「いいよ別に、子供じゃあるまいし。言ってみただけ。」
そう言われたけど、俺もだんだん祥平の性格を把握しつつある。ちょっとやそっとで傷つきそうもないのは外見だけで、実はかなり繊細だったりして。神経質なことは確かだし。
それに本当にどうでもいいって思ってるんなら、わざわざ言わないよな?
しかし、プレゼントっていっても難しい。贈り物は沢山貰ってるけど、貰った奴の顔なんか覚えてないって言うし、色々好みも煩い。服なんかちょっとでも気に入らないと絶対着ないし、返品してしまうに決まってる。一緒に買いに行ってもいいんだけど、俺に金使わせるの嫌がるし。
本?DVD?CD?色々考えたけど、俺と祥平の趣味が違い過ぎてこれも良く分かんない。
ああ…あと一週間ちょっと…なにも思いつかない!
「失礼します。」
「どうぞ。カーラに聞きました。あのアパートは出たそうですね。」
「あ、はい。あの…色々ご心配おかけしました。」
俺のコンドはまだ人に貸してあるって知ってるし、それにハッピーな顔で気づかれたんだろう。
「良かったですね。」
「はい…。あの、それで…」
「会社辞めるなんて言わないで下さいね。」
うっ。
「やっぱり…。まるで引継ぎみたいに色々一遍に言われて大変だって、プロジェクトに参加してる子が言うから、ひょっとしてって思ったんですけど…。もう僕と仕事するのは嫌ですか?」
「違います!俺、恭介さんの事は凄く尊敬してます。仕事が出来て、大人で…俺、恭介さんみたいになりたいです。憧れてます。けど…」
「尊敬、ですか?」
「はい。もっと色々恭介さんと仕事して、教わりたい事あるけど…でも…あの…」
「祥平君のため?僕と仕事して欲しくないって言われました?」
首を横に振った。そう、祥平は何も言わない…けど、だからって気にならないはずがない。
「違います。だけど、俺、この会社に8年も居るし、そろそろ別の場所でどれだけやれるか試してみたいんです。プロジェクトの方はちゃんと引継ぎ済ませて、俺の知ってる事は全部きちんと伝えますから。」
恭介さんが何も言わずに暫く俺の顔をじっと見た。
「あ、あの…黙ってて済みません。もう少しちゃんと引継ぎをすませてからお伝えしようと…。」
ふと視線を逸らすと今度は笑顔を向けてくれた。
「決心は固い、ですか。分かりました。それなら、やりたい仕事が見付かったら教えて下さい。僕がリファレンスになります。リッチも今回のプロジェクトでの君の仕事は評価してますから、きっとリファレンスになってくれますよ。」
「ありがとうございます。」
俺は思い切り頭を下げると、しばらくそのままの姿勢で居た。本当に恭介さんはいつも何から何まで先回りしてくれて、それなのにちっとも押し付けがましくなくて…。この人が俺の恋人だったらすごく楽なんだろうけど。
(俺よりずっとあなたに相応しい人を見つけて、どうかお幸せに。)
「顔を上げて下さい。敬吾君ならきっと直ぐ次の仕事が見つかりますよ。バケーション溜まってるでしょう?インタビューに行くならそういう時は遠慮せずに使いなさい。」
「はい。」
「じゃあ、お幸せにね。」
俺はまたペコっと頭を下げてオフィスを出た。
俺って実は浮気性なのかな…やっぱり恭介さんのこと好きだ。嫌いじゃないから寝たんだけど。祥平に対する気持ちと全然違う…けど、それでもやっぱり好きだったんだ。
「ケーゴ、何ボーっとしてるの。」
「あ、ハーイ、カーラ。」
「クスッ、ケーゴって可笑しいわね。こないだからすごいアップダウン激しいし。今はハッピーなんじゃないの?彼女の所に戻ったんでしょ。」
「…彼氏…」
「え?」
しまった、思わず…。日本語だったけど…カーラ、日本語分かるんだろうか?
「あ、いや、あの…あ、そうだ。カーラってボーイフレンドいるの?」
速攻でごまかすしかない。
「居るわよ。ケーゴにも紹介したじゃない、クリスマスパーティで。」
「ああ、そうそう。優しそうな人だったよね。」
カーラは仕事も出来るし、結構美人だけど、彼氏はカーラより背も低い位で、ルックスは決して良いとは言えなかった。この場合、とりあえず「優しそう」って言っとくのが無難だろう。
「フフッ。そうなの。今度、私のバースディにラスベガスに連れてってくれるのよ。」
「へー。」
成る程…旅行か。けど、俺も祥平も今から急にまとまった休みは取れないしなー。
「彼のバースディはどうしたの?」
「クスクスッ。私のアパートでディナーをご馳走したのよ。すごく喜んでくれて…」
あーだこーだ話し続けるカーラに適当に相槌を打ちながら、これはいけるかも、って思った。
まさか頭にでっかいリボンを付けて、俺が贈り物っていう訳にもいかないだろうけど…。
ま、笑いは取れるだろうな。
溜まってるバケーションを取っていいっていう恭介さんの言葉に甘えて、俺は次の6月6日の水曜日、悪魔の誕生日、じゃなくて祥平のバースディに一日休暇を取った。サプライズにしようと思って、祥平には内緒で。
いつも通りの時間に一旦家を出て、まずグロッサリー・ショッピングに出かける。色々買い込んでから、祥平が家を出た頃を見計らって家に戻った。
それから時間を掛けて家中を磨き立てた。俺の掃除が雑だとか言ってたのを思い出して、窓枠やレーリングまで、指を隙間に突っ込んで丁寧に磨いた。午前中はそうやって掃除に潰れてしまう。
ランチは簡単に済ませて、その後、ズッキーニ・ケーキを焼いた。バターが使えないから、オイルで代用するんだけど、この加減が微妙。けど、祥平が一度作ってくれたのが、とっても美味しかったから、レシピ通りに材料を混ぜ合わせてオーブンに入れた。焼き上がったら、取りあえず見た目は奇麗に焼き上がった。
デコレーションも生クリームが使えないから難しい。パウダーシュガーを振り掛けて、その上から、ハッピーバースデー、しょーへーってチョコレートで書いた。更に、イチゴを薄くスライスして、それを小さなハートの型で抜いて、その小さなハートをケーキの上に並べて大きなハートを作る。
出来た!
それからポテトとほうれん草とマッシュルームのパイを型に入れて焼き、その間にキッチンの掃除をした。ケーキを焼くとどうしてもキッチンが汚れる。
祥平の好きなジュースも買ってきたし、後はシャワーして着替えて…。
ケーキと掃除に意外と手間取ってしまって、シャワーして髪を乾かす暇もなく、祥平が帰ってきた。
最近はまたディナーの時間には帰ってきてくれる。
まだ髪が濡れたままバタバタ階段を駆け降りた。
「お帰り、祥平!誕生日おめでとう!」
「ああ…サンキュー。お前なに慌ててんの?髪、濡れたままじゃ風邪引くぞ。」
「大丈夫。それより、座って!今ディナーにするからね。」
「何作ったの?いい匂い。」
「まあ、座って待ってなって。」
ちょっと乙女過ぎるかと思ったけど、やるならトコトンって決めて、キャンドルに火を灯してロマンチックにセッティングしたテーブルに祥平を座らせた。
「…これ…」
でも祥平がポカンとした顔で飾り立てられたテーブルを見たんで、急に照れくさくなった。
「今、パイ焼けたからね。」
って言うと、キッチンに逃げ込んだ。やっぱ馬鹿にされそう…。パイ皿を祥平の前に置いて、
「ちょっと張り切り過ぎたけど、たまにはいいよな?」
って言ったら、真顔で返されてしまった。
「ありがとう。嬉しいよすごく。」
「うん…良かった。」
なんて可愛い奴…。普段言うこともやることも目茶苦茶なだけに、余計こういう時は可愛いんだよなー。
酒が飲めない祥平のために二人でジュースで乾杯した。そしたらパイを食べ始めた途端に電話が鳴る。
「俺が出るから食べてな。」
そう言って何気なく電話を取ると、
「ハッピーバースディ、ショーン!久し振りい、元気?これからそっち行っていい?渡したいものがあるんだけど。」
「…。」
知らない男の声…。無言で受話器を祥平に渡した。
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