お買い物

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ライン ドット

次の土曜日は5月の終わりの爽やかな天気で、出かけるにはもってこいの日よりだった。祥平はご機嫌でジェッタを運転してカストロに向かう。

 

観光名所になってるカストロ・ストリートはゲイのメッカとして有名だけど、俺達はそんなにしょっちゅうカストロに行くわけじゃない。通りの両側にレインボーフラッグが見られることを除けば、美味しいレストランが沢山あって、アートフィルムを上映する映画館があって、ごく普通のカフェがあるというだけの割と普通の街だ。

 

確かに男同士、女同士のカップルを見るけど、ストレートのカップルだって普通に見かける。ホワイトカラーのリッチなゲイが移り住みだしてから、レントも跳ね上がって、今ではゲイの街というよりは、リッチ・ピープルの街って感じだ。ゲイであろうとなかろうと若い子に手の出る物件は無い。

 

毎年派手なハロウィーン・パーティーが行われるんで有名だったけど、ここ23年は市外からやって来る連中による発砲事件が相次いで、昔からのカストロの住人はパーティには怖くて参加しないって祥平が言ってた。そういう祥平も去年のハロウィーンは家に居たらしい。

 

車を停めて久し振りに祥平と手を繋いで歩いた。やっぱりカストロを二人で歩いてると、他の所を歩いてるよりはビシバシ視線が飛んでくる。時々ハーイって知らない男からも声が掛かった。祥平の知り合いらしい男女23人からも声を掛けられて、しばらく立ち止まって話をする。

 

天気が良くて暖かく、外で立ち話をしてても気持ちが良い。祥平はどうやら今年のパレードに参加しないかって誘われてるらしい。

 

おおっ!俺は見たこと無いけど、一度は見たいかも。かの有名なプライド・パレード!

 

「ねえ、どうするの?参加するの?」

「パレード?どうしようかな?敬吾は?参加したい?」

「お、俺は…。」

「無理だよな…。」

 

祥平と二人でいるとそれがごく自然なことに思えるし、少なくとも会社組織として公然とゲイを差別するっていうのはイリーガルだけど、やっぱり俺は未だに堂々とカミングアウト出来ないでいる。勤務先が日系企業っていうのもあるのかもしれない。

 

まあそれは言い訳で、俺が臆病なだけなんだけど…。

 

「でも俺、パレードは見たい!祥平が参加するなら絶対見に行く。」

「敬吾が参加しないなら俺もしない。」

「なんで?別に俺が一緒に歩かなくてもいいじゃん。」

「大体さ、どうせなら俺、ダイクス・オン・バイクスやりたいんだよな。あれが一番目立つじゃん。」

 

それは…無理でしょう…。

 

ニュースで見た事あるけど、サンフランシスコの有名なプライド・パレードはまずダイクス・オン・バイクスっていうレズビアンの行進で始まる。

 

レザーに身を固めた、まるで男にしか見えないブッチとフワフワしたミニスカの可愛いリップスティックレズビアンの取り合わせとか、ブッチ同士、可愛い子同士、色んなレズビアンのカップルが、全員バイクや中には小さなスクーターに相乗りして、パレードの先頭を切って行進する。

 

パレードの中ではこれが一番壮観で、見物の中にはこれだけ見て、セクシーな衣装のゲイの女性のカップルの写真を撮って帰るっていう不届き者もいるらしい。

 

「俺、女装したら混ぜてくんないかなー。」

「祥平、パレードの主旨理解してる?目立てばいいってもんじゃないぞ。」

「だってさ、ただプラカード持ってチンタラ歩くの面倒くせーし。」

 

何て奴!ってカムアウトもしてない俺が偉そうな事は言えないけど…。

 

「あ、ここ。」

「?」

 

のんびり歩いてる間に、いかにもって感じのエロいコスチュームがウィンドウに飾ってある店を幾つか通り過ぎて、ひょっとしてショッピングっていうのは忘れて散歩してるだけかなって思ってたら、祥平が一見普通のオフィス・サプライの店みたいな店舗の前で立ち止まった。

 

外から見る限りでは店内は明るくて、変な雰囲気じゃない。何気なく祥平の後から入った俺は、きちんと並べれられた陳列棚を見てぎょっとした。

 

見渡す限り…大人のオモチャ?

 

間口より奥が深くて、ズラズラッと並んだ陳列棚の多さに圧倒されてしまう。思わず回れ右をして外に出ようとした俺は、祥平に腕を掴まれて店の中に引き摺りこまれた。

 

「ハーイ!今日は何を探してるの?質問があったら遠慮無く聞いてね!」

 

でっかくてごっつい、年齢、人種、ともに不明、性別も怪しいおかまの店員さんがクネクネしながら、祥平を見て嬉しそうに寄ってきた。肌が変に黒いのは焼き過ぎたのか、地の色なのか…。

 

「バイブレーター探してるんだけど。アナル用だからあんまりデカクないやつ。」

 

おかまさんが分厚い唇を舐めると、俺と祥平を見比べた。

 

「…そうねえ…。じゃあ、こちらにどうぞ。」

 

バイブって…。それはやっぱり俺に使おうとか思ってる?

 

「一番小さいのはこれだけど…。」

 

って、おかまさんが先端の尖った白いプラスチックの棒を指した。

 

「でも、これどっちかっていうと女性用なの。ね?」

 

スイッチを入れるとその棒がブウィーンっていう音を立てて振動し始めた。おかまさんがここをクリxxスに当ててどうこうっていう説明を始める。

 

そんなこと丁寧に説明されても…。

 

「もう少し大きくてもいいから、もっと面白いの無いの?」

 

面白いって…。

 

ああでもない、こうでもないっておかまさんと盛り上がったあと、祥平が俺に言った。

 

「はい、この中から敬吾に好きなの選ばせてあげる。」

 

どれも嫌っ!

 

おかまさんと祥平が二人ともニコニコしながら俺を見てるけど、一体俺にどうしろって言うんだ!

 

最終的に俺に選べっていうのは3つ。

 

一つは見ただけでゲンなりする蛍光どピンクの透明なやつで、なぜか下の部分が枝分かれしてクニュッと曲がってる。

 

「先の方をアナルに入れると、ちょうどこの下の部分が袋に当たって…ほら、スイッチを入れるとここがグニグニ…。」

 

げっ!

 

もう一つは気色悪りー緑色で、丸い玉が繋がったみたいな変な形をしてる。

 

「先の方が小さいでしょ。一つ一つバイブレーションさせながら、ゆっくり入れれると…うふっ。」

 

「うふっ。」って言われても…。

 

おかまさんはどうやらそのタイプが好きらしくて、更に詳しく説明を続けた。

 

「ほら、触ってみて。シリコン製だから柔軟性もあるし、ウォータープルーフになってるからシャワーしながら使えちゃうの。」

 

でも俺はやだっ!

 

最後の一つは色も形も細部にいたるまで、アレそのものの形をしてる。わざわざ血管が浮き彫りされ、皺まで刻み込んであるリアリズム。

 

「俺、やっぱりお仕置きなら掃除が…。」

「よし、じゃあ俺が決めてやる。なんなら3つ纏めて試すか?」

 

Nooooo

 

「じ、じゃあ…これ。」

 

取りあえず一番無難そうなリアルなやつを指すと、祥平がニヤっと笑った。

 

いいんじゃんnice and kinky…」

 

え?なんで?俺、ひょっとして変なの選んだ?

 

焦って箱の説明書を読もうとしたけど、祥平に引きずられて次のアイルに引っ張っていかれた。

 

そこで得体の知れない小さな犬の首輪みたいなものを2つ、更に人形のベルトみたいなのも買い込んだ。

 

「これなに?なんに使うの?」

 

恐る恐る聞いたけど、笑って答えてくれない。全部纏めてレジに持ってくと、さっきのおかまさんが

 

「ハーイ!準備OK?」

「うん。このバンド革じゃないよな。」

 

さっきの人形のベルトをヒラヒラ振って聞いた。

 

「大丈夫よ!でも、フフッ。これも濡らすと余計締まるから気を付けてね。」

「簡単に外れると困るんだよな。」

「だからあ…濡れるとそう簡単に外れないわよっ!」

 

おかまさんが身体をクネらせて赤くなった。俺の方を「ねえっ!」って言って上目遣いに見るけど、「はあ…」としか答えようが無い。

 

「メタルでもいいけど、この方が調整が効くだろ?」

「何が?」

「ああ、後で分かるよ…。」

 

笑顔が怖いって…。

 

隣のレジでは白人の女性が二人、ストラップ付きの真っ黒でデカイのを嬉しそうに購入してた。先にレジを済ませた彼女達が俺達に向かって、

 

Hi.  Have a nice day!」

 

って…皆さん堂々としてらっしゃる…。祥平とおかまさんがニッコリ笑って手を振ったから、俺もつられて一緒に、

 

You too.

 

とは言ったものの、俺がこれから「良い日」を過ごすことになるかどうかは疑問…。

 

家に帰った途端その疑問が確信に変わった。

ライン ドット

 

実はカストロでエログッズの店を見た覚えがない…。変な衣装とかウィンドウに飾ってあるのがそうなんですかね?ここに書いた店は、南カリフォルニア某所にあるお店がモデルです。そこら辺また日記もどきに書いたので、もし宜しかったら読んでみてね。「お買い物は手に取って」(2007.9.16

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