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「俺、俺だって祥平に合わせて大変だったんだ。祥平だって、俺がちょっとキッチン汚すと怒るし、アキがトイレの砂リビングに落とすとわざわざ俺呼んで拾わせるし、俺だって人と住むの初めてでしんどかったよ。祥平は俺の話いつも全然聞かないし、間違った事言うと直ぐ馬鹿って言うし、祥平は頭良いから分かんないかもしんないけど、そう言われると俺だって傷つくんだ!俺の食べたいものにも一々ケチつけるし、TVだって…」
言い過ぎたと思って口を閉じた時には、既に祥平は例の無表情で俺を見てた。
「…俺と住むの嫌って言ってるように聞こえるけど?」
「ち、違う!そうじゃない。俺はただ…祥平にももっと俺の話をちゃんと聞いて貰いたいって…。」
「聞いてるつもりだったんだけど、俺なりに。」
祥平の目がピタッと俺に当てられた。
「なあ、敬吾は俺にどうして欲しい?俺はいくら敬吾のためでも…いや、誰のためでも、違う人間にはなれないぜ。俺は、俺だよ。敬吾こそ俺にはついてけないって思ってるんじゃないか?」
「そんな…それは時々祥平が変な事言い出すから…。けど、それでも俺は祥平が好き!好きだから一緒に居たい。それはホントだよ。」
祥平がフッと目線を逸らすと言った。
「…今日は帰る。お互いもう少し考えてみよう、本当はどうしたいのか。」
「待って、ごめん。言い過ぎた。俺、祥平と居たいよ。ねえもう少し話そう。まだ行かないで。」
俺が祥平に伸ばしかけた手を避けるように、祥平が身体をツイと動かした。
「このままなし崩しにセックスして、適当により戻したくないんだ。」
そう言われてしまうと、なし崩しによりを戻そうって思っていた俺は、それ以上手を伸ばせなくなった。
アキが祥平の足にじゃれ付くのを抱え上げると、「お前元気そうだな。」って言って祥平はベッドルームを出て行った。
「祥平!」
「…また連絡する。」
パタンと玄関のドアが閉まるまで、俺はそのまま呆然と立ち尽くしていた。
馬鹿…
お、俺のばかあっ!
俺は正真正銘の馬鹿だ!祥平がわざわざ会いに来てくれたのに、俺は一体何やってるんだ?
祥平が帰ってしまったあと、俺は床にへたり込んで自分の馬鹿さ加減を呪った。
正直このまま一緒に住みだしても、前と同じじゃないかと思ったせいもある。祥平があれで俺に気使ってくれてたなんてびっくりだったけど、俺にだって言いたい事は沢山あった。
だけどそんな事はどうでもよかったのに…。来てくれて嬉しかった、会えて本当に嬉しかった…どうしてもっと素直に言えなかったんだろう?
祥平の顔を見たせいで、祥平の事を乗り越えて前向きに進もう…なんて思ってた殊勝な決心がガラガラ崩れてしまった。というか砂漠で死に掛けの人が水を欲しがるみたいに、喉が渇いてヒリヒリするみたいに祥平が欲しかった。
やりたい…祥平としたい…祥平の欲しい…。
立ったままモノを取り出して扱き出した。猿か俺は…って思うけど、考えてみれば相当溜まってたのも事実で、シコシコ何回か擦り上げると簡単にイケてしまった。
その夜は祥平の事を考えながら、自分でヤリまくってしまった。あそこに指まで入れてみたけど、自分でやっても上手くいかなくて却って奥が疼くだけ。「祥平、欲しいよ…ああ…。」なんて馬鹿なことを一人でやって、そのうち丸出しのまま寝てしまった。
…朝…。
連絡するって言ってくれたんだから…。
祥平が俺の事を忘れないでいてくれた、って分かったのは嬉しかった。土曜日はいつ携帯が鳴ってもいいように、オンになってるのを確認してどこへ行くにも持ち歩いた。
でも、日曜日の夜になっても連絡がなくて、俺はアパートの中をウロウロ歩き回った。
俺が余計な事言ったから、やっぱり一緒に住むのは止めようって思ったんだろうか?俺と住むの疲れたって言ってたし…。でも…俺の事ばかり考えてたって、そう言ってくれたよな?
俺の方から連絡しようかどうか悩んで、何度か携帯と睨み合いしては止めて、どうしても我慢できなくて夜中にメールを入れた。
「会いに来てくれて嬉しかった。連絡待ってる。敬吾。」
他にも一杯言いたい事はあったけど、メールでゴチャゴチャ書くのも煩がられる気がした。突き詰めて考えれば、本当に言いたい事はそれだけだったっていう気もする。
社内では普段は電源を切ってる携帯をオンにしたまま、財布の変わりにジーンズのバックポケットに入れて持ち歩いた。
連絡が無いまま、その週は一日一日がやたらに長かった。木曜の夜になって、明日もし連絡が無かったら、俺が祥平の家に行こうって思ってたらやっと携帯が鳴った。
祥平だ!
「もしもし!祥平!」
「ハイ、敬吾。俺が今なに食べてるか当ててみな。」
「え?」
本当は電話じゃなくて、直接迎えに来てくれないかと思ってた。携帯が鳴ったのは嬉しかったけど、ひょっとしてやっぱり別れようって言われたらどうしようって不安だったのに…。
何を食べてるかって?知らないよ、そんなこと!
「俺、今さあ、敬吾がフリーザーに置いてったアイスクリーム食べてんだよね。」
俺のアイス…?
「あ!だって祥平、それ、俺のイチゴアイス…。駄目だよ、だってクリームも卵白も入ってるじゃん!なんでそんなの?」
口に入れる物は全て神経質にチェックして、乳製品も絶対食べない祥平が俺のアイスクリームを食べてるって…
「敬吾が言うとおりだよな。俺、別にちょっと食べたからって死ぬ訳でも無いのに、一々うるさく言い過ぎたよ。食ってみれば美味いし。」
「そんな…無理しなくていい!吐き出して!」
クスっと電話の向こうで祥平が笑った。
「確かに美味いことは美味いけど、すっげー気持ち悪いっていうか、罪悪感あるなー。やっぱ止めとく。敬吾が帰るまで取っといてやる。」
「うん、うん、俺が帰るまで…あ…。」
軽い溜め息が聞こえた。
「俺に別の人間になれって言われても無理だけど、敬吾のする事に文句は言わないよ。敬吾のこと馬鹿って言うのも止める。他にも嫌なことがあったら、我慢しないでその場ですぐ言ってくれれば直すようにする。だから俺の所に…戻ってきて下さい。」
安心したせいで急にボロボロ涙が出た。
「しょーへー、ヒクッ、俺こそ、俺の方こそ…ごめん。俺、一人で居ても野菜ばっか食ってた。グスッ、俺、野菜大好き…祥平のことも好きっ!会いたい、今すぐ会いたいよー!」
自分でもなに言ってるかよくわかんねー。「会いたい!」っていうのが一番の本音だった。
今すぐ会いに行くって言う俺に、祥平は明日の夜ビーマーワゴンで迎えに来てくれるって約束すると電話を切った。
その夜は嬉しくて、嫌がるアキを抱きしめて頬擦りしたり、おでこにキスして顔も口の中まで毛だらけになった。
「アキー、よかったねー。お前もお友達に会えるよ!」
迷惑そうなアキを下ろすと、その夜寝るためのシーツ以外は全部箱に詰めてしまった。ほとんど荷物を出してなかったから、あっという間にパッキングが終わってしまう。
明日は祥平に会えると思うと子供みたいにドキドキしてなかなか眠れなかった。
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