残業

5

ライン ドット

痛いより吃驚して茫然としてると、祥平が辛そうな悲しそうな顔で俺を見詰めた。

 

「ごめん…。けど、敬吾は俺の気持ち全然分かってない。敬吾が怒ってるから、俺を拒むから…俺がこの1ヶ月どんな気持ちで敬吾を避けてたか、何も分かってない!」

「そんな…。だって…だって、祥平はいつも俺が嫌って言ったって、無理矢理やるじゃんか。」

「俺がいつそんな事した?敬吾が本気で嫌って言ったら無理矢理なんて出来るわけないだろ!」

 

そんな事…そうなんだろうか?俺が本気の本気で嫌がったから?怒ってたから?でも俺だって意地になってただけで…ずっと淋しかったのに…。

 

「祥平…。」

「あいつの事好きなの?」

「違うよ!違う!」

「好きでもないのにあんな事させたの?」

「それは…。」

 

アキがミャーって声を上げてカウチから飛び降りた。いつも遅い俺を心配して、帰るといつも起きて挨拶に来る。

 

祥平が首を振った。

 

「俺の事が嫌いになったんなら…。」

「違う!俺が好きなのは祥平だけ!」

 

突っ立ったままの祥平にしがみ付いてキスした。反応が無い身体に抱き着いてキスを浴びせる。抱いて欲しくて…。祥平に抱いて貰いたかった…何も考えられない位メチャクチャに。けど祥平のアソコに手を伸ばそうとすると、肩を掴んで押し戻された。

 

「こういうのは好きじゃない。」

「だって…。」

「カウチで寝る。」

「…。」

 

言い出したら聞かない…。さっさと毛布や枕を運ぶ祥平に何も言えなかった。

 

広いベットで一人で寝ても、身体が火照って眠れない。しばらくアッチコッチに転がった後、諦めて一人でスル事にした。

 

声を立てないように、サッサと済ませてしまおうとした。祥平の顔を思い浮かべようとするのに、アキの顔や恭介さんの顔と重なる。イク時に誰の顔が浮かんだかはっきりしないくて、自己嫌悪でますます眠れなくなった。

 

階下で寝てる祥平の事を考えた。どうして俺を拒んだんだろう?毎日のようにしてたのに…平気なんだろうか?これからどうするつもり何だろう?一体何を考えてる?

 

一晩中眠れなくて、それでも明け方近く寝付いたらしい。祥平の怒鳴り声で目が覚めた。

 

「出てけ!どういうつもりだ!」

 

あ!恭介さん!迎えに来てくれるって…もう9時?

 

慌てて飛び起きると階段を駆け降りたけど、半分くらい降りた所でTシャツ着てないことに気づいた。

 

「ああ、敬吾君。おはようございます。起こしちゃいました?」

「服着ろ!馬鹿!」

「恭介さん、済みません。あの、すぐ着替えますから…。」

 

また大慌てで階段を駆け上がると、祥平が追いかけてきた。バタバタ服を着る俺を黙って見てる。俺も何も言わなかったけど、服を着てから、階段の上に立ってる祥平の横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれて突然噛み付くようなキスをされた。

 

「…ん…や、止め!」

 

どうして…夕べは俺を拒んだくせに…。何で今、恭介さんが待ってるって分かってて…なんで?

 

ただ乱暴で痛いだけのキスから身体を捩って逃れると、下で待ってる恭介さんに聞こえないようにっていうのが頭にあって、息を整えてからなるべく平静な声で話した。

 

「どうしたんだよ、いきなり。」

「あいつと行くの?」

「仕事にだよ。俺の上司なんだ…。昨日は車のトラブルで送ってもらったけど、それでなくったってオフィスへ行けば毎日顔合わせるんだ。なあ、今日は早く帰れないか?俺も早めに帰るから、ちゃんと話そう?このままじゃ俺達…」

 

どうにかなっちゃうぞ、って言おうとした俺をスパッと遮って祥平が言った。

 

「別に無理しなくてもいいさ。このまま壊れる位なら始めからそれだけの関係だったんだろ、俺達。」

「祥平…。なんで…何でそんな風に言うんだよ!俺は、祥平とちゃんと話して…もし誤解してる事があるなら…」

「誤解?」

 

祥平が鼻で笑った。

 

「必要無いね。サッサと行けよ。大事なボスがお待ちかねだぞ。」

 

もう構ってられなくて声が高くなった。

 

「勝手にしろ!そうやって俺を無視する気なら、俺だって好きにするぞ!」

 

そのまま祥平の顔も見ずに階段を駆け降りた。半泣きで目が吊り上ってたと思うけど、ドアの前で立ってる恭介さんを見て慌てて表情を取り繕った。どうせ全部聞かれちゃったかもしれないけど…。

 

恭介さんは何も言わずに少し微笑んで立ってた。その落ち着いた顔を見て、俺も少し平静になる。昨夜の事が無かったみたいな顔だ。どんな顔して恭介さんに会えばいいのかって思ってたけど、祥平のせいでそれどころじゃ無くなってたし。

 

「すみません。お待たせしました。」

「構いませんよ。9時って言ったのに少し早めに来てしまいましたから。」

 

車に乗り込んでから恭介さんが優しい声で聞いてくれた。

 

「夕べは申し訳ありませんでした。あれから彼と喧嘩したんじゃないですか?」

「…いえ…。」

「祥平君が帰ってきたのは分かってたんですよ、車のライトで。でも、つい…。この間のお返しって訳じゃ無いんですけど…すみませんでした。」

 

この間のお返しって…わざと祥平に見せ付けたって事だろうか?

 

俺はハアアーってでっかい溜め息を吐いた。

 

ったくどいつもこいつも…。

 

「だけど僕が言った事は本気ですよ。僕が敬吾君の恋人なら、もっと君を大切にします。僕の事が嫌いでないなら真剣に考えてみてくれませんか?」

 

俺は視線を逸らさないように頑張って言った。

 

「夕べの事は忘れて下さい。その、ああいう話を聞いて少し動揺してたって言うか、魔が差したって言うか…。でも、俺は祥平が好きなんです!恭介さんの事は仕事の出来るボスだし、尊敬してます。でも、俺は…俺には祥平しかいませんから。」

 

…顔真っ赤になっちゃった。

 

大体どうしてこういうセリフを恭介さんに言わなきゃいけないんだろう?聞いて欲しいのは祥平なのに…。

 

一瞬ポカンとした顔をした恭介さんが、クスクス笑いながら言った。

 

「ほんとに敬吾君、君って子は…まったく。早くその言葉を僕に向かって言って欲しいですね。」

 

だからどうして俺の周りって人の話を聞かない奴ばっか?

 

黙ってしまった俺に構わずに恭介さんが続けた。

 

「とにかく仕事に関しては僕は敬吾君を買ってますから。オフィスでは僕の事はただの上司だと思って下さい。ああ…ただの上司じゃなくて…尊敬できる、優しいボス…かな?」

「…はあ…。」

 

それからはオフィスに着くまで仕事の打ち合わせとか、職場の誰それの他愛の無い噂話をした。

 

オフィスからAAAに電話して車をショップにレッカーして貰うと、幸いバッテリーを替えればすむ話だったのでそのまま直して貰う事にした。フィリピン人の女の子にショップまで連れてって貰って、昼休みには車を引き取った。

 

恭介さんとはその日は殆ど会わなかった。

ライン ドット

 

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