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ライン ドット

そんなこんなで感謝祭の週末の間中、祥平は俺の機嫌を取り続け、俺は予定通り次の週末には祥平の家に引っ越して来た。

 

だけど人と住むのが、いや、祥平と一緒に住むのがこれほど大変なことだったなんて!

 

祥平の強引な性格は知らなかったわけじゃない。だけどここまでとは思わなかった。この性格を何て言ったらいいんだろう?こんな奴見たことない。一言で言えば、「俺様を中心に世界は回っている。」と本気で信じてるとしか思えない奴。

 

口論しても絶対に勝てない。俺の方が正しいとしか思えない時でも、何だかんだで言い負かされる。

 

「お前は自分の言ってることが分かってない。」

 

“You don’t know what you are talking about.”

 

何遍このセリフを聞かされたことか!

 

確かに俺はアメリカのカスタムや常識に関して疎い。だけど頭ごなしに馬鹿にされるとムカツク。

 

そして、ビーガンっていうのがベジタリアンと違うっていうのもやっと分かった。ベジタリアンが野菜を食べる普通の人なら、ビーガンっていうのは言葉は悪いけどオブセッシブな人少なくとも祥平はそうだ。

 

まず皮製品は一切使わない。犬の首輪も皮じゃない。当然革靴も持ってない。

 

肉を食べないのは分かる。チキン・ストックのスープも飲めないのはいいとして、鰹出汁も駄目なのには参った。うどんを作ろうとして、花鰹を入れようとしたら止められた。

 

それで確信した。こいつは日本語を喋るアメリカ人だ。いや、アメリカ人だって今時寿司も食えば、うどんも食べる。祥平は何様だ?

 

それに蜂蜜まで駄目って?

 

蜂蜜って動物製食品っていうのか?俺はパンにバターと蜂蜜をベットリ塗りたくって食べるのが好きなのに、いやーな顔で睨まれると食欲が失せる。

 

おまけに異常な潔癖症。

 

俺はたまに肉が食いたいと、自分で買ってきて焼く。その後、キッチンをピカピカに磨き、鍋や皿を奇麗にして、家中の窓を開けて換気しておかないと、臭いって怒る。

 

前から家の中が凄く奇麗だと思ってたけど、クリーニング・サービスにでも来て貰ってるのかと思ってたら、いつも自分で掃除してたんだ。

 

ちょっと汚れてもすぐサササッと掃除機、スプレー、モップその他の掃除道具を駆使して素早く掃除してしまう。アキは掃除機が大嫌いだし、俺もちっとも落着かない。

 

アキが来て直ぐにヘア・ボールを吐いた時は、引き攣った顔をしただけで文句は言わなかったけど、その後一週間に一度バスタブでアキの毛を流すように言われた。アキは暴れるし、ドライヤーが嫌いだからタオルを何枚も使って身体を乾かしてやらなきゃいけなくて、それだけで2時間以上俺の週末が潰れてしまう。

 

下らない事だけど、見たいTVも違う。

 

俺はサンフランシスコで見られる、日本語TVの番組を見るのが好きだけど、祥平にはいちいち馬鹿にされる。

 

「お前、こんなん見て何が面白いの?」

 

わざとらしいの、嘘臭いの、ありえないだの、人が楽しんで見てる横でとにかくウルサイ。

 

「俺は仕事から帰ってまで意味の良く分かんない英語を聞くのがやなんだ!録画しといたしょーもないドラマとかを見るのが楽しみなんだよ!悪いか!嫌なら見るな!俺は自分のTVで見る!」

 

文句を言いつつも俺が見てる横に来て、俺をからかうのが面白いらしい。下手にドラマとか見て泣こうもんなら大笑いされる。

 

あー、こんな奴とは思わなかった!

 

でも機嫌が悪いときは憎たらしいガキだけど、優しい時は優しいんだよな。

 

それに祥平と見てるとアメリカの番組も面白い。祥平はニュース番組をリモートでカチャカチャ、チャンネルを切り替えながら見るのが好きだ。俺に分からない事は説明してくれるから、今まで興味の無かったこともだんだん分かってくる。

 

TVだって毎晩見るわけじゃない。家にいる時は二人とも夜は静かな方が好きで、そして静かな夜に何をするかと言えば俺が祥平といるまた別の理由。

 

セックスも大事って言われた理由、だんだん分かってきたような。俺の身体はすっかり祥平に慣らされて引っ越してきてからは毎晩欠かさずだから、求められれば直ぐ受けいれられて

 

確かにこの相性が悪いと続かないかもなー。

 

そんなこんなで引っ越して来て1ヶ月が過ぎて、今年はクリスマスの休暇は祥平の家で二人だけで過ごすことに決めた。祥平は日本にはずっと帰ってないらしいし、俺も日本に帰っても特に面白いことも無い。

 

特に去年辺りから「結婚」はどうするんだ、みたいな事を言われるようになった。兄貴は38で男女二人の子持ちだ。両親と同居してて、それで充分じゃないかと思うんだけど

 

俺も来年29になるし、きっとまた結婚の話を蒸し返されるはずだと思うと気が重い。アキが32で見合いしたのも分からないでもない。彼は俺と違って一人息子だし、エリートだ。半端なプレッシャーじゃ無かったろうって思う。

 

姉貴も30過ぎてて独身だ。俺は姉貴とは顔も似てるし一番気が合う。そして俺がゲイって知ってる唯一の家族だ。独身OLで暇な姉貴は、俺がアメリカに住みだしてから1年に1回は遊びに来る。

 

たまたま姉貴が泊まってた時にアキが俺の家に来て、勘の異常に鋭い姉貴にバレてしまった。それ以来アキの愚痴を聞いてくれたりもしたけど、何だか俺の私性活、いや私生活にやたら関心がある。祥平と暮らしてるって事も姉貴だけは知ってる。

 

彼女は一人暮らしだから、姉貴のマンションに泊まれればまだ気楽なんだけど。たまに帰る正月位家に居ろって親父に言われて、実家でチビ達の相手をするはめになる。

 

甥っ子も姪っ子もそれなりに可愛いんだけど、親父とお袋の「アメリカで何やってんのか分かんない。」っていう攻撃には参る。市民権取ったっなんて言ったら何言われるか分かんない。

 

とはいえ、祥平と2人でクリスマスって言っても特に何をするわけでもない。

 

祥平なんか簡単なライティング一つ点けない。

 

「全然飾り付けしないの?ライティングとか家に無いの?」

「ああ、ババアが持ってたやつは捨てた。」

 

「バ、ババアってお母さん?何も捨てなくても。」

 

「いいじゃん別に。雪も降らねえのにライト・アップしたって間抜けだろ。お前もコンドに住んでたんだろ?わざわざ何かしてたわけ?」

 

「まあ、一応。」

 

たいした飾りつけをするわけじゃないけど、バルコニーに面した窓枠にクリスマス・ライトを飾るくらいはした。周りがみんなしてると、やっぱり少しはフェスティブにしないと悪いかなって思うし。

 

郊外の家々は感謝祭の頃から派手な電飾やバルーン、その他様々のデコレーションで飾り立てられる。特に頑張ってる家は、見に行く価値のある家ってことで新聞にまで載るし、その周辺で渋滞が出来たりするくらいだ。

 

「電気代の無駄。エネルギーの無駄使いなんだよ。」

 

まあ、祥平の言うとおり悪趣味な家や、やり過ぎっていう感じの飾り付けも多い。

 

それでもクリスマス、俺達は一応ケーキを焼いてイエス様のお誕生日を祝った。

 

正確には俺だけだけど

ライン ドット

 

ビーガンについては、「日記もどき」にもう少し書いてみました。もし宜しかったら、715日の日記もどき、「筋金入りの人々」を読んでみてね。

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