感謝祭の夜

2

ライン ドット

ハイウェイを降りてからグルグルグルグル、延々と丘を上る道をたどって行くと、ようやく「ここ。」って言って車が停まった。

 

これはまた…。

 

崖を切り崩したような急な坂の遥か上に、でっかい家が建っている。白い円柱で支えられた、丸く張り出したバルコニーの下のポーチの奥に、立派な観音開きのドアが見えた。

 

けど、そこまで登って行く階段がどこにもない!?

 

(一体どうやってあそこまで登れっていうんだ?)

 

祥平はサイド・ウォークに半分乗り上げてジェッタを停めると、道に面した小さな小屋に向かって歩き出した。

 

その小屋にある電話を取り上げて、「俺。ショーン。」って言うと、小屋の上から…

 

リフトが降りてきた。

 

呆気に取られてる俺の前でリフトが止まると、祥平がそれに乗り込んだ。

 

「乗れよ。二人まではOKだから。」

「はあ…。」

「驚くだろ?こんな家建てる奴って、ぜってー後ろ暗いとこあると思わねー?」

「だよねー。」

 

リフトはゆっくり動くし、そんなに怖くはないけど、傾斜が急だし、もしケーブルが切れたりしたらと思うとゾッとする。ホントどうしてこんな家を建てる必要があるのか…。やばいビジネスとかしてて、誰かに襲われることを想定してるとしか思えない。

 

やっとパテオの横にリフトが留まると祥平が飛び降りた。

 

「俺、これ嫌い。」

「俺も!」

 

パティオのスライディング・ドアが開くと、白人の少年が飛び出してきた。

 

「ショーン!久し振り!元気ー?」

「元気だよ。こいつ俺の男、ケーゴ。ケーゴ、彼はジュン。」

「初めまして。」

「こちらこそ宜しくね。」

 

語尾を上げるような可愛い声のジュンは、女の子みたいな名前の通り、華奢でとっても美人だった。祥平みたいなキツイ感じはなくて、モロ女顔だ。

 

フフッ…俺のこと自分の男だなんて。

 

「ケーゴはここ初めてでしょ?こっち来て、案内するよ。」

 

ジュンちゃんが俺の手を引いて馬鹿でかいキッチンを通ると、リビングに出た。

 

ほんっとに金持ちって言うのは…。

 

正面に180度広がる窓からはベイ・ブリッジを見下ろす素晴らしい景色が広がる。祥平の家から見るのとは角度を変えてベイを見下ろす事になる訳だ。

 

「凄いね。」

「でしょ。僕もう見飽きたけど、最初は感動したもん。こっちに来て、ケーゴ。皆に紹介するよ。」

 

リビングにはカウチや大きなフカフカの椅子が点々と置かれていて、もうそこに何人か人が集まっていた。祥平はキッチンで誰かと話しながらサルサを作っているらしい。

 

俺の事をジュンは「ショーンのボーイフレンド」って皆に紹介して回って、俺はそのせいか皆にジロジロ見られた。ジュンが笑って言う。

 

「気にしないでね。皆、ケーゴがショーンの恋人っていうのが意外なんだよ。」

「やっぱ俺とじゃ釣り合わない…よね。」

「違う、そうじゃないよ。ケーゴはとってもキュートだし。でも、ショーンの今までの彼って、何て言うのかな、こう…危ない感じの奴多かったからね。」

 

そう言うとジュンがちょっと肩を竦めて見せた。子供みたいなジュンに可愛いって言われるのもどうかと思ったけど、そう言えば祥平が前の恋人のことをサイコって言ってたのを思い出した。

 

どんな奴だったのか聞いてみたかったけど、ブザーが鳴ってジュンがパテオの方に飛んでいった。またあのリフトを降ろすんだろう。

 

大きくバルコニーに向かって張り出した窓から下を覗いてみる。若い女性のカップルがリフトを待っているのが見えた。一人は褐色の肌にウェービーな長い黒髪の背の高い美人で、もう一人は小柄な白人の女性だ。

 

「ああ、ジュリアとラティーシャね。」

 

後ろに立って話し掛けてきたのは、さっき紹介された、確かアイリスっていう、俺より少し年上に見える褪せた金髪の女性だった。近くで見ると雀斑が顔じゅうに散っている。美人じゃないけど白人の女性にしては物静かな感じで、俺は彼女としばらく窓辺で話しをした。

 

彼女はジュンとその恋人のルームメートで、ガイっていう奴の彼女らしい。ゲイのカップルの家にストレートの男が同居してるってのは謎だったけど、貧乏学生の彼は、家賃がただってことで居候させてもらってるってアイリスが言った。

 

そのうち、どんどん人が集まってきて、ジュンはリフトの上げ下ろしに忙しそうになった。

 

そしてしばらくすると、祥平がでっかいコーン・チップのボールとサルサを持ってリビングに来た。

 

「アイリスと何話してたの?」

「別に、彼女の恋人がここに住んでるっていう話とか…。」

「ふーん。」

 

祥平が眉を寄せて考え込んでいるようだったけど、なんでだろう…変な奴。女と喋ってたからって俺がまったく女駄目なの知ってる癖に。

 

サルサやカナッペを食べながら居間にいると、ジュンがディナーにしようって言い出した。リビングの隣のダイニングの20人位座れそうな長いテーブルに、俺は祥平とアイリスに挟まれて座った。

 

予想通りターキーは無くて、皆ベジタリアンなのかパスタ・サラダを含む色んな種類の野菜がテーブルに並べられていた。チーズも食べない祥平はその中から自分の食べられそうな物だけを選んで皿に取り分けた。

 

祥平の向かいにはジュリアとラティーシャのカップルが座って、盛んに祥平に話し掛けた。政治好きのカップルらしくて、この間の選挙の話で盛り上がっていたけど、俺の方は見向きもしないんで、しょうがなく俺はアイリスと話を始めた。

 

アメリカ市民になって最初の選挙は民主党の大勝利に終わって、サンフランシスコ選出の女性議員が初の下院代表に選ばれた。俺は一応民主党に票を入れたけど、バレットっていう詳しい懸案の説明を全部、票を入れる前に読んだ訳じゃない。

 

投票に行っただけマシ?

 

「君の彼はどこに座ってるの?」

「彼はこういう席が苦手なんで、部屋にいるのよ。」

「へー。」

 

住んでるのに降りてこないっていうのも変わってる。その事にこだわってないように見えるアイリスも不思議だった。

 

「後で彼の部屋に行ってみない?2階から見ると夜景がもっと奇麗よ。」

「あ、いいね!是非見てみたいな。」

 

それまで女性のカップルと話してた祥平が急にこっちを向くと、突然アイリスに向き直った。

 

「アイリス、ケーゴは駄目だよ。」

「あら、ショーン、私は別に…。」

「どうしたんだよ、急に。」

「ちょっと来い。」

「何怒ってんだよ。」

「いいから!」

 

突然日本語で怒鳴る祥平を皆目を丸くして見つめた。アイリスが肩をすぼめて俯いてるのを見て、俺はキッチンに祥平を追いかけて行くと、声を上げこそしなかったけど、精一杯怒った声で言った。

 

「何で俺が彼女と喋るの気にすんだよ。俺、祥平が相手してくれないから、彼女と喋ってただけじゃん。」

 

祥平が頭を振ると大袈裟にハーって言った。

 

「敬吾、お前は馬鹿か?」

「なに!」

「ガイの部屋に行こうって誘われたろ?」

「だからなんだよ!アイリスのボーイ・フレンドだろ?ストレートの奴じゃんか。2階の景色も見てみたいって思っただけで、何が悪いんだよ!」

「あのさ、ホントにストレートの男がゲイのカップルと同居してると思う?」

「え…だって…。」

「ガイはバイだよ。それも男女同時にヤルのが好きっていう奴。」

 

(はあ!?男女同時?)

 

俺の思いっきり混乱した顔を見て祥平が説明してくれた。

ライン ドット

 

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