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あれやこれやで全てが片付くのに1ヶ月近く掛かかってしまって、バタバタしてるうちに感謝祭の休みが近づいてきた。気が付けば通りの木々もすっかり色づいて、季節はすっかり秋。
引越し業者を頼んで、感謝祭の次の週末に家具をレンタル・スペースに運ぶことに決めた。同じ日の夕方、祥平のビーマー・ワゴンで俺の荷物を祥平の家に運んで貰うことにする。
「で、サンクスギビングはどうすんの?」
「どうって…別に…。」
アキが結婚してからというもの、休日は俺にとっては苦痛なだけだ。感謝祭の休みからクリスマス、ニュー・イヤーとホリディが目白押しのこのシーズンは、アメリカで自殺者が激増するシーズンでもある。
華やかなクリスマスのデコレーションに囲まれて、孤独と向き合えない気持ちは俺にも良く分かる。
「キャルに通ってる俺の友達が、金持ちのタイワニーズと住んでてさ、その彼がサンクスギビングはいつもNYの親に会いに行くんで、家が空くんだよね。俺はいっつもそいつの家でサンクスギビング・オーファンズと過ごすんだけど、敬吾も行かない?」
サンクスギビング・オーファンズ…それ面白い!
感謝祭の休日に行き場の無い淋しい孤児達…ってまさに俺のことじゃん!
「行く行く!面白そう!キャルってバークレーの事だよね?祥平の友達って男の子?やっぱりゲイなの?台湾人の恋人って男?」
「そ、そうだけど…。どうしたんだよ、そんな大喜びで行くようなとこでも無いぜ。」
「だって俺、祥平の友達に会うのって初めてだし。」
「ああ…。でも別に普段それ程仲いいってわけでも無いんだけど…。」
「いい!ねえ、何か持ってくの?ワインとか?」
「そうだな…一応ポトラックだし。サラダとかでいいんじゃないか?」
サラダって…ひょっとして皆さんベジタリアン?
「ターキーは食べないんだ。」
「うーん…ターキー食べたかった?」
「ううん、どうせあんまりパサパサして好きじゃないし。」
けど、サラダだけっていうのも淋しいかも…ま、いっか。皆でワイワイ騒げば楽しいし。
感謝祭の当日は、良く晴れて暖かいドライブにぴったりの日だった。俺は長い週末を祥平の家で過ごす事にして、アキとおトイレ、3日分の着替えを詰めたバッグを車に乗せると、まず祥平の家に向かった。
空港へ向かう帰省ラッシュは昨日のうちに終わったらしくて、早朝の280号は車が少なくてガラガラだった。バスケットの中のアキが盛んに抗議の声を上げる。アキがこのバスケットに入れられる時は、医者に行く時か、予防接種を受けに行く時で、どっちにしてもアキにとっては嫌な思い出しか無い。
「ごめんな、アキ。これから住む家の下見に行こうな。」
アキはすっかりキャンディとシンディに懐いてるから、それは心配ないとしても、祥平のリビングの高そうなカウチをひっかいたらどうしよう、とか、幾何学模様のいかにも高そうなラグにヘア・ボールを吐いたらどうしよう、っていう不安はある。
俺のコンドの4倍はありそうな家だから、アキにとってはテリトリーが増えるのは嬉しいかもしれないけど。
280号を北上して行くと、いつもビーチに向かう92号と交差して、そこでハイウェイが下りにさしかかる。左側、眼下にある湖の上に濃い霧が白く漂うのが見えた。晴れた朝日が霧の上に差し掛かかって、周りを囲む緑との対比が夢の中の風景みたいに現実離れした美しさだ。
祥平の家に引っ越したら、毎日このハイウェイをオフィスまで通う事になる。通勤時間が倍以上になるから、この景色の美しさが救いだ。特にこの辺りはクリスタル・スプリングスの公園を中心に、保護区になってる緑の山々が連なる。
この辺の不動産の値段は半端じゃないから、保護区になってなければこの山々もあっという間に家で埋まってしまってるはずだ。この自然は永遠に守って欲しいと思う。俺の家の近くにもリスは当たり前として、鹿は出るし、マウンテン・ライオンまで出没する。それもこれも近くに自然が残っていればこそだ。
途中で280号を降りて、101号に乗って市内へ向かった。日本と違って簡単なテストにパスすれば誰でもドライバーズ・ライセンスを取得できるから、下手な運転する奴が本当に多い。ベイ・ブリッジに向かう奴、シティに入ろうとする奴、ハイウェイがややこしく交差する所で、後ろから来たトラックにぶつけられそうになってヒヤヒヤした。
市内に入ってからも一方通行や左折禁止の道、行き止まりが多くて、ホントにややこしい。坂の傾斜も半端じゃない。祥平の家へはダウンタウンを抜けて行かなくちゃいけないから、今朝は車が少なくて助かった。
道に車を停めて、門の横のチャイムを鳴らすと祥平が降りてきた。
「よ!猫も一緒?」
「うん。ホントにいいの?」
「これから一緒に住むんだろ?ほら、貸しな。」
砂が詰まったアキのトイレを片手で持ち上げると、俺のバッグも担ぎ上げた。
(見かけによらず、力あるんだよなー。)
俺はアキの入ったバスケットを持って玄関に入る。
「お邪魔します。」
キャンディとシンディが走ってきて、俺に鼻を擦り付けた。
「あー、嬉しいなー。ちゃんと覚えててくれたんだ!」
ここ2、3週間はビーチに行けなくて、しばらく彼女達とは会っていなかったんで、忘れられてるかと思ったのに。
「二人とも敬吾のファンだからな。」
「へへー。」
アキをバスケットから出してやると、犬達がアキにも鼻を擦り付けた。アキは最初は戸惑っていたけど、その内彼女達のことを思い出したみたいで、2匹の足に頭をぶつけながら、足の間をグルグル周り始めた。
アキのおトイレは取りあえずリビングの横の普段は使ってないバスルームに入れた。そして俺の荷物をベットルームに入れてしまうと、そろそろ出かける時間だった。
「あれ、もう出かけないといけないんじゃない?1時からじゃなかったっけ?」
「そんな早く行っても誰も来てねーよ。」
「え?そうなの?」
「そう。」
(そっかー。パーティでもわざと30分位遅刻していくのがクールみたいだし。そういうのファッショナブリー・レイトって言うんだよな。)
カッコ良く遅刻して行くんだ、って思っていたら1時近くなって祥平がトマトを切り始めた。
「何してるの?」
「サラダじゃ皆と重なりそうだから、サルサ作ってく。」
手際良くトマトをダイスに切り、オニオンを微塵切りにしてタッパに詰めると、香菜は切らずにそのままジップ・ロックに入れた。
「それは入れないの?」
「食べる前に刻んで入れた方が美味い。」
(なるほど…。)
それにしてもいくらなんでも遅刻し過ぎじゃ…。
1時はとっくに過ぎてるし、これからベイ・ブリッジを渡って、バークレーまでドライブすると2時近くなるんじゃないかって心配してる俺を尻目に、祥平は時間を掛けてシャワーを浴び出した。
「敬吾も一緒に入る?」
「…いい…。」
一緒にシャワーなんかしたら、きっとそのままベット直行で、そしたら行くの止めたって言い出すに決まってる。
苛々する俺を不思議そうに見ながら、祥平は更に時間を掛けて服を選んだ。ようやく家を出たのはもう2時過ぎ…。
(いいのか、こんなんで!)
思った通り、ベイ・ブリッジで感謝祭のディナーに向かう渋滞に巻き込まれた。いつもはFワードを連発してクラクションを鳴らしまくる祥平は、俺が苛々してるせいで逆に落ち着いていた。
「どうしたんだよ?」
「だって…もう2時半過ぎたし。」
「だから?」
「いくらなんでも遅刻し過ぎじゃ…。」
「ああ、何だ。別に1時っていうのはその時間なら家にいるっていう意味だから。サンクスギビングのディナーは普通4時位からだし、まだ早い位だって。」
「そうなんだ…。」
だったら最初から4時って言ってくれればいいのに。
アート・メジャーだっていう祥平の友達からのメールには、1時からオープン・ハウスって書いてあった。オープン・ハウスっていうのは、単に家は開いてますっていう意味だったんだ。分かりにくい…。
ちなみに祥平は今日はビーマーじゃなく、ジェッタに乗ってる。ワゴンは主に犬達を乗せるためで、学校に行く時は違う車に乗ってるって聞いて驚いたけど、確かにあの高そうなBMVのワゴン車は、キャンパスで盗まれるか、わざとぶつけられるか傷つけられるかしそうだ。
だからって2台も車持ってるって…金持ちって奴は…。
今日訪ねるバークレーの家も、有名な建築家のデザインだっていう豪邸らしい。祥平の友達の彼氏は台湾出身の金持ちの息子らしいけど、学生の分際で親に建てて貰った家に住むなんて!
って祥平も同じ様なもんなんだけど。
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