お散歩

3

ライン ドット

ビーチから5分もしないでダウンタウンに出ると、ようやくお店が開き出す時間だった。犬を連れて入ってもOKっていうレストランを選ぶ。いかにもビーチの近くの開放的なレストランだ。

 

彼はアボカド・サンドを、俺はクラブ・サンドを注文したけど、彼は丁寧にサンドイッチを開いて、中のチーズだけ取り出した。ベジタリアンって言っても、乳製品まで食べない程徹底してるのも珍しい。

 

「ビール飲んでいい?」

「どうぞ、俺飲めないから。」

「ごめんね。運転してるのに…。」

「いいって、どっちにしても俺アルコールは飲めないの。」

「…そうなんだ。」

 

つくづく不思議な子だ。若いのに野菜しか食べないし、アルコールも駄目なんて…。かといって、研究室にこもってオタクな医学生って訳でもなくて、相当遊び慣れてる感じでもあるし、俺の周りにはいないタイプには間違いない。

 

それにしても…祥平といると周りの目が全然気にならない。アキと外に出かける事は滅多に無かったけど、たまに二人で出かけるとビクビクしてしまってちっとも楽しくなかった。祥平は俺と二人でいることに何のこだわりも無いみたいにごく自然に振る舞う。

 

ランチを食べながら聞いてみると、彼は小学生の時に父親の転勤に付いてアメリカに来たらしい。どうりで英語がネイティブなわけだ。高校を卒業すると同時に家族にカミングアウトしてこっちに残るって宣言したって聞いて、俺は驚いた。

 

「御両親びっくりしてたろ?」

「全然…もうとっくに知ってたし…。ただ、今更聞きたくないみたいな?スッゲー嫌そうな顔はしてたけど。」

「はあ…。」

 

ってことは高校生の頃からもう男と遊んでた?俺なんて19まで童貞だったのに…。

 

「ま、俺には兄貴もいるし、スペアみたいなもんだから、どっちでもよかったんだろ。敬吾は?兄弟いるの?」

「うん。俺も兄貴と姉貴が一人づつ。」

 

大手の会社に決まってた就職を蹴ってアメリカに行くって言った俺に、両親は当然反対したけど、結局「勝手にしろって!」って事になったのは兄貴がいてくれたからだと思う。祥平も俺も次男坊のお気楽さって奴かな。

 

「あのさ、こういう話知ってる?最近の研究データによると、同性の兄弟がいると後から生まれた方はゲイになる確立が高いんだって。3男とか4男だとほぼ確実にゲイになるらしいぜ。ま、医学的証明は全然できない話だけどな。」

「え?」

 

何それ?

 

「あれじゃない。子孫を残すには一人いれば十分な訳じゃん。後から生まれた奴は役に立たない方がいいんじゃないの?自然淘汰って奴。」

「…そういうの何か嫌だな。」

「は?」

「何かそういう風に言われるのって嫌だ。」

 

彼は急に機嫌が悪くなった俺を呆れたように見た。

 

「別に俺が言ってる訳じゃないよ。ただのセオリー。医学的根拠は何にも無いって言ったろ?何怒ってんの?」

「怒ってる訳じゃないけど…。」

 

そういう風に自分を位置づけられるのって凄く不愉快。まるで俺がゲイに生れる事が決まってたみたいな言い方。今まで散々悩んだり考えたりしたのが馬鹿みたいじゃん。

 

ちょっとムスっとしてると、キャンディが俺の足にキューンっていうような甘ったれた声で鼻を擦り付けた。すっかり俺に懐いてしまった彼女の頭を撫でてやると、膝に頭を乗せてキラキラした目で俺の顔を見る。

 

「そんな顔で見ても、ベーコンあげないよ。」

「キャンディはテーブルから食べ物をおねだりしたりしないよ。敬吾が好きなんだよ…俺と一緒…。」

「え?」

 

今、何か「好き。」って言われたような?俺の聞き違い…だよね?

 

それから急に無口になった彼と「道が混む前に帰ろう」っていうんで、車に乗り込んだ。帰りは行きと違って、静かに考え事しながら運転してるみたいだったから、俺も黙ってジャズのリズムに耳を傾けた。

 

ビーチを2時間近く走ったり、歩いたりしたのは俺にとっては結構な運動量で、おまけに昼飯と一緒にビールまで飲んだもんだから、静かな運転にウトウトしてしまったらしい。

 

目が覚めるともう家の近くまで来ていて、反対車線はお昼からビーチに行こうとしてる車の列で、ものすごく渋滞していた。

 

彼が俺の顔を見て嬉しそうに言う。

 

「な、早起きして行って良かったろ?」

「う、うん。」

「あいつらにホンキングして手振ってやろうか?」

「…止めなよ。」

 

機嫌が良くても意地悪って…。

 

家の前まで来ると写真をまだ返してもらってない事に気づいたけど、今更何かもうどうでもいい気がしていた。

 

「またね。」って言うのも変だし、何て言えばいいかなって思ってると「トイレ貸して。」って言われた。

 

「あ、うん。」

 

ビジター用のスペースに車を停めて、当然のように犬を連れて俺の部屋に上がって来ようとするから慌てて止めた。

 

「ちょっと、犬は駄目だよ。」

「何で?」

「言ったろ、猫飼ってるって。トイレ行くだけなら車に待たせとけばいいじゃん。」

「こいつらにも水飲ませたいんだよ。猫なんて食わないから平気だよ。」

 

そして例のごとく押し切られる俺…。

 

あーもう、アキ大丈夫かな?

 

「ちょっと待ってて。」

 

廊下に彼と犬達を待たせておいて、部屋に入るとアキを探した。アキはベットの上で丸くなってたけど、俺を見るとギューって伸びをしながら起き上がった。フワーってでっかい口を開けて欠伸をすると、耳がペタンと後ろに倒れて途端に間抜けな顔になる。

 

ベットから飛び降りて、俺の足に挨拶のおでこガッツンをかますアキを抱き上げ、またベットに戻してベッドルームのドアを閉めると、アキが「ビャー!」って言うような抗議の声を上げた。

 

(ごめん、アキ。)

 

そうやってアキをベッドルームに閉じ込めてから、部屋のドアを開けた。

 

「どうぞ。」

「足、拭いた方がいい?」

「あ、うん。」

 

こういうとこは気が利くんだけどな…。

 

タオルを持って来ると、キャンディとシンディの足も拭いてくれた。彼女達にアキのボールから水を飲ませる。

 

そして彼の後で用をすませた俺がトイレから出てくると…

 

(あれ、何で寝室のドアが開いてる?)

 

「アキ、いるの?」

「“アキ”?」

 

あ!

 

何とアキがちゃっかり彼の膝の上に座って喉を鳴らしていた。

 

「この猫“アキ”って名前なんだ。へー。」

 

ま、猫に別れた男の名前を付ければ馬鹿にされても仕方が無い…とは思う。やっぱ新しい名前を考えるべきだった!

 

「この猫メスなんだよね。ほら、アキって女の子の名前みたいじゃん。名前考えるの面倒でさ、ハハッ!」

 

…ってまったく説得力無いし…思いっきり笑われてるし…。

 

彼がアキを床に降ろすと俺に「おいで」っていうように手招きをした。

 

(俺は猫じゃないんだけど…んんっ…)

 

ベットに並んで座るとキスをされた。

 

(まあ部屋に入れた時点でこうなることは分かっていたような…。)

ライン ドット

そんなわけでこの話は続きます。「続けて」っていうメールを下さった皆様、本当にありがとうございました。書いてる本人だけ楽しくても、読んでる人は「なにこれ」って感じじゃないかって不安だったんで、とっても嬉しかったです。これからも宜しくねっ。

(ちなみに祥平が言ってる「統計データ」について「日記もどき」にもうちょと詳しく書いときました。「お兄ちゃんが欲しい?」っていうタイトルの2007.6.22の「日記もどき」ですので、興味のある方は読んでみてね。)

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