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天気も良いし、ビーチは気持ちが良いだろうなって思ってしまったのが間違いだった。俺の家の頭金くらいはしそうな、馬鹿でかいBMWのワゴンはビーチへの狭い一本道を狂ったようなスピードで走り、俺は真っ青になって座席にしがみ付いていた。
助手席にもエアバッグが装着されている事をしっかり確認した。2匹のドーベルマンは彼の運転に慣れているらしく、少し開いた窓から鼻を突き出すようにして御機嫌で乗っている。
運転しながら前を走る車が遅いって言って、fxxxを連呼するし、すぐにクラクションを鳴らすし、車の運転に性格が表れるって本当だ。
なんで俺またこいつに付いて来てしまったんだろう?顔が良いからってだけで、誘われると断れない俺って一体…。
幸い、週末っていってもまだ朝が早いかせいか、ビーチへ向かう92号は空いていた。山道を抜けるとあっという間に周りに田舎の風景が広がって、彼もご機嫌でスピードを落とすとCDのボリュームを上げる。
意外…ジャズなんて聴いてるんだ…
軽快で複雑なリズムのシンコペーションが、青空に広がっていくようなミスマッチのマッチ?トランペットがヘンテコなタイミングで鳴った途端、俺は意味も無く笑ってしまった。
「え、何か可笑しい?」
「いや、俺ジャズって良く分かんないけど、今の面白かったかなって…。」
彼が俺の顔を見てフッと笑った。馬鹿にした笑い方じゃなくて…なんていうか優しい笑顔。そんな風に見つめられて、ドキッとしてしまう。赤くなったんじゃないかと思って、慌てて窓の外を見た。
「あー、もうモミの木結構育ってる?あれでクリスマスまで成長し過ぎにならないかな。」
ビーチに行く手前の道には牛や馬がいる小さな牧場があったり、ナーサリーがあったりして、その間に何故かモミの木を栽培している所もある。ビーチに何て滅多に来ることがない俺は、久し振りの景色にウキウキしていた。
(いや、ウキウキしてんのは景色のせいだけじゃないんだけど…。)
朝早いせいか、ビーチの直ぐ側に車を停められた。ワゴン車の後ろを開けるとドーベルマンが嬉しそうに飛び降りて、彼の顔を舐め出す。
こうして見るとホント子供みたいで可愛い…。
そう思いながらポケッと見とれていると、「はい」ってリードを渡された。
「あの?」
「キャンディお願い。」
イッ?
サッサともう一匹のドーベルマンを連れてビーチに歩いて行く彼を、キャンディは駆け足で追いかけ、リードを握った俺は引きずられるように走り出した。
砂に足を取られそうになるのは波打ち際に出るまでで、波が足を濡らす直前まで近づけば、固まった砂の上はもう歩きにくいってことはない。俺達は海岸線が緩いカーブを描いて伸びるビーチを、遠くに見える灯台に向かって歩きはじめた。
朝のビーチは同じように犬の散歩をしてる人が多くて、皆笑顔で挨拶を交わして行く。男同士で歩いてる俺達を気にする風も無い。そうやって歩いてると自分でもひどく開放的な気分になった。
彼は時々人が居ない所でリードを放してドーベルマンを走らせてやると、自分も犬を追いかけて走った。キャンディもそうなると走りたがって、俺も日頃の運動不足を後悔しつつ、息を切らしながら追いかけた。
気が付いて振り向けば、さっき車を停めた辺りは遥か後方にあった。
(俺、帰り大丈夫かな?随分歩いたなー。)
「疲れた?もう1時間近くあるいたから引き返す?」
「ごめん…ちょっと疲れたかも…。俺、ここで待ってようか?もう少し散歩させる?」
「いや、これから引き返せば充分。」
帰りは俺に合わせてくれたのか、ペースを落として歩いてくれた。
土曜日は大抵どこかのビーチか公園に行って自分で犬を散歩させるけど、普段は学校のスケジュールが不規則だからドッグ・ウォーカーを雇ってるとか、最近は大型犬は禁止っていう公園が増えたとか、他愛もない話をしながら歩いた。
俺が猫飼ってるって言うと、「似合ってるよ」って言って笑った。
俺はこの笑顔に弱い。奇麗で澄ました顔が急に幼くなって…抱きしめたくなる可愛さ。
古い恋を忘れるには新しい恋をするのが一番。
なーんてね、こいつに恋なんてしたら絶対大変そう。女の心配はしなくて良さそうだけど…男関係は派手そうだし。
「そう言えば、祥平君はどうして市民権を取ろうって思ったの?あんまり嬉しそうじゃなかったけど…。」
「祥平、でいいよ。“くん”は余計。俺も敬吾って呼ぶし。この間はそう呼んでたろ?」
「あ、うん。」
この間って言うのは…アレしてる時って事だよなー。途端に彼の名前を呼ぶ自分の喘ぎ声を思い出して、一人で赤くなってしまった。その俺の顔を面白そうに見ていた祥平が言った。
「敬吾さ、アトーンメント・キャンプって知ってる?」
「あとーんめんと?」
「そう、大戦中にカリフォルニアの日本人が入れられてた強制収容所。」
「あ…聞いた事ある。」
「俺は日本に戻る気無いから市民権は取ったけど、プレッジ述べるのには抵抗あるんだよな。国家に忠誠を尽くすのはいいけど、その国家に裏切られる事だってある訳だろ?こっちが宣誓するだけで逆は無いんじゃな、片手落ちだと思わない?」
「そっか…。それであの時、忠誠の誓いは片方だけじゃないって…。」
「俺そんな事言ったっけ?良く覚えてるな。」
“気になったからだよ”って心の中で返事した。君の事がすごく気になったから。
「俺らもさ、下手するとレインボー・キャンプとか入れられたりして。」
「まさかあ!」
ゲイの結婚を禁止する法案を通した州もあるけど、まさかゲイの収容所なんて…でも、レインボー・キャンプって名前が可笑しくて二人で笑った。
パーキングに戻ると、スニーカーを脱いで足を洗って、濡れたスニーカーもついでにザッと砂を洗い落とした。
「これ履きなよ。」
って言うと、彼がワゴン車からサンダルを取り出して貸してくれた。
「ちょっと早いけど昼飯食ってく?」
「そうだね。」
「何食べたい?」
「何でも。」
俺は特に好き嫌いは無いんで、野菜しか食べない彼に合わせることにした。
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ちなみにゲイの結婚を正式に禁止する法案が圧勝した州は、Arkansas, Georgia, Kentucky, Michigan,
Mississippi, Montana, North Dakota, Ohio, Oklahoma, Oregon and Utah。オレゴン…カリフォルニアのお隣だけど保守派が多いんですね。